別居のときに子どもを連れて出ると親権で不利となるのでしょうか。
親権者の指定、別居の時に家を出た場合に子どもの連れ出しは違法となるのか。
(想定事例)
夫が不倫をしていることが発覚しました。浮気で口論となって、このまま一緒に戻ることはできないと思いました。
幸い、実家はすぐ近くにあるため、子どもたちの学区を変えることなく離れることができます。
子どもは小学生であり、これまで私が子どもの面倒を見てきたことから、子どもを引き取って実家に帰ろうと思っています。
しかし、夫から子どもを連れ去るのは違法だ、家に置いていくように言われています。
ネットの記事を見ると、子どもの連れ去りは違法との記載があり、親権者を決める上で不利となるかと不安に思っています。
子どもを連れて共に家を出ることはできないのでしょうか。
弁護士の回答
① 主たる監護者である妻が子どもを連れて別居に至った場合には、子どもの福祉、環境に配慮された形で家を出たときには、直ちに違法と判断されないことが多いでしょう。
② もっとも、夫婦間での協議をして、どちらのもとで生活することが子どもの福祉に叶うかを協議で定めることが望ましでしょう。突然、通学先から連れ去るといった違法な態様は避けるべきでしょう。
このような態様では、子の連れ去りを行った場合には、子の引渡しを求める審判などがなされる危険性があります。
親権者との判断について、不利な態様とならないよう弁護士とよく相談をしておきましょう。
1 子どもを連れての別居について
日本においては、夫婦が別居をする際に、妻が子どもを連れて出ていくといったケースが多くみられてきました。
妻が主たる監護者であり、これまでの監護、養育を行ってきたとの実績がある場合には、同じ監護者のもとで子どもの養育を見ることが適切であると考えられます。
主たる監護者は誰であったのか、子どもの福祉に叶うものであったのかを基準に子どもを連れての別居が適法であるかどうかが判断されることとなるでしょう。
家庭裁判所も従来は、これらの実情を踏まえて上で、妻が子どもを連れて出ていった場合に当該行為を違法と判断するケースは少ないでしょう。
なお、ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)によっては、国境を越えた、不法な子どもの連れ去りや留置等の要件によって、子の返還が認められることとなっています。子の常居所地国の法律などにより、連れ去り又は留置が子の監護権の侵害となる場合に不法な連れ去りと評価される危険性があるため注意をしておくことが必要となるでしょう。
日本の家庭裁判所でもハーグ条約などを受けて、子どもの違法な連れ去りといったことについては厳格に判断がなされるといったこともありえるかもしれません。
2 連れ去りの態様によっては違法と判断されることがある
夫婦が合意をしていない状態において学校などから無断で子どもを連れだした場合や自動車で無理やり連れ去りを行った場合には、社会的に相当な態様でないために、連れ去り行為が違法と判断されることがあります。
違法、不法な態様での連れ去り行為は、親権者としての適格性がないと判断されるおそれがあるために避けるべきものと考えられます。
3 虐待や家庭内暴力など子ども福祉の観点から子どもを連れた別居に正当な理由があると判断されやすい
夫が子どもに対して虐待や暴力をしている場合には、子どもの福祉に反していると考えられます。そのような場合には、子どもを連れた別居は正当な理由があると判断されることとなるでしょう。
虐待や暴力については、できれば証拠を残していくことが望ましくはありますので、仮に怪我をされた場合には写真を撮っておく、医師に診断を受けておくなどをしておきましょう。
4 家庭裁判所において監護者を定める方法について
夫婦で相談なく、子どもを連れ去るといったことには危険性があるとして、当事者で協議により子ども監護を今後はこちらが見るからと話し合うことは大切です。
もっとも、話し合いでの解決ができない場合には、家庭裁判所での調停・審判によって解決する方法も存在します。
・子の監護者指定の調停・審判
別居中の夫婦などにおいてどちらが子どもを監護することが適切かについて、当事者での協議ができない場合には、家庭裁判所の調停において話し合うことができます。当面の間は別居となり、離婚をしない場合などには離婚調停ではなく、子の監護者指定を行うといった場合があり得るでしょう。
調停での話し合いが不調となる場合には、監護者指定の審判によって、裁判官が子の福祉の観点から、どちらが監護者としてふさわしいかの判断がなされることなります。
したがって、別居を行う場合に、離婚調停において親権者などを定める機会がないのであれば、監護者指定調停・審判を行い、監護者を誰とするのかを定めていくことがあり得るでしょう。
5 子どもが連れ去られた場合の対応について
(1)監護者指定の審判・子の引渡し審判・審判前の保全処分
離婚前に夫婦の子の取り合いとなった場合で、どちらかに奪われてしまったといった案件となった場合には監護者の指定審判、子の引渡しの審判、及びその審判前の保全処分を行っていきます。
審判前の保全処分は、子どもなどの急迫の危険を防止するための必要性があること、本案が認容される蓋然性があることが必要となってくるでしょう。本来の子の引渡しを命じる審判が出されてもその目的を達成することができないレベルの子どもに対する虐待、放任等が現になされている場合で、子が相手方の監護が原因で発達遅延や情緒不安を起こしているなどの事態が必要とされるでしょう。
(2)人身保護請求
人身保護請求手続は、法律上正当な手段によらないで、身体の自由を拘束されてるときに、裁判所に対して自由を回復させることを請求できる制度です。人身保護法という法律に基づくものですが、家庭裁判所調査官の調査などを経ずに、緊急の暫定的な手段として用いられるものです。親権や監護権を有するものから、非親権者に対して人身保護請求が認められている例も存在はするため、拘束の違法性、緊急性がある場合には、検討を行うこととなるでしょう。
6 まとめ
これまでの家庭裁判所の実務においては、主たる監護者である妻が子どもを連れて別居に至った場合には、別居時に子どもを実家に連れていったとしても、違法とは評価されないケースが多いとは思われます。一方で、すべての事例において、別居時に当然に子どもを一緒に連れていくといったことが適切なわけではない点に注意が必要となるでしょう。子どもに十分に配慮されていない場合には、親権の獲得などにおいてもマイナスに評価されるおそれがあります。そのため、弁護士とよく相談をして進めていくとよいでしょう。
天王寺総合法律事務所には、家事事件に取り組む弁護士が所属しておりますので、離婚、別居などで紛争を抱えられている方はぜひお気軽にご相談ください。
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大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。