離婚届を勝手に出されないか不安です。何か対策はないのでしょうか。
離婚の話で揉めた場合には,子どもの親権者を決める前に相手方が勝手に提出してしまう事案が残念ながら存在します。
そこで,離婚届を勝手に出されないためにはどのような対策ができるのかといった点を解説させていただきます。
1 離婚届を勝手に出すことは犯罪となる
親権者を取得するためなどとして,離婚届を勝手に出される場合があります。
役所も,離婚届を代理人や片方が出しに来ることがあるため,離婚届に署名・捺印がある場合にはこれを受け取ってしまうおそれがあります。
残念ながら,役所では,署名が本物かどうか,捺印が実印であるかどうかといったことをチェックしてくれるわけではありません。
そのため,偽造した離婚届が提出されてしまうおそれが存在してしまうのです。
しかし,離婚届を勝手に提出してしまう行為は犯罪となりますので,絶対にしてはいけません。
(1)電磁的公正証書原本不実記載罪
刑法157条には,公務員に対して虚偽の申立てをして,登記簿,戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ,又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するとの規定が存在します。
役所の公務員に対して離婚に合意したという虚偽の申立てを行い,電磁的記録(現在は,戸籍がコンピューターで管理されています)に事実でない記載をさせたとして,電磁的公正証書原本不実記録罪といった犯罪が成立することとなります。
このような犯罪をしてしまった場合には,5年以下の懲役,50万円以下の罰金がなされることとなる可能性が発生します。
(2)有印私文書偽造罪等
刑法159条1項には,行使の目的で,他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し,又は偽造した他人の印章もしくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は,3月以上5年以下の懲役に処するとの規定があります。また,偽造した有印私文書を行使することも犯罪とされています(刑法161条1項)。
離婚届自体は,公文書ではないため,私文書というくくりになります。そして,印鑑が押している私文書として有印私文書として法律上重要な文章といった扱いをされることとなります。離婚届の相手方が記載すべき欄に,署名押印を勝手にしてしまうことは,行使する目的で,離婚届という私文書を作成する行為となるので,これを役所に提出してしまうと,有印私文書偽造・同行罪が成立してしますこととなります。
有印私文書偽造・同行罪をしてしまった安倍には,3月以下5年以下の懲役になってしまう危険性がある行為です。
したがって,虚偽で離婚届を作成して,提出することは犯罪であり,許されない行為であるという点を確認しておきましょう。
2 虚偽で出された離婚届を無効とする手続き
虚偽で提出された離婚届であったとしても,役所は形式面が整っていれば,受け取りをしてしまうために,離婚届を当然に無効なものとして取り扱ってもらえるわけではありません。
離婚届が受理させてしまった場合には,離婚無効を理由として,判決又は審判にて離婚無効を行い,審判を,役所に届け出て戸籍の訂正をしてもらうことが必要となります。
(1)調停・審判手続
① 当事者 離婚無効確認の利益を有する者
② 管轄裁判所 相手方の住所地又は当事者が合意で定める家庭裁判所
③ 申立費用 収入印紙 1200円
(最新分は各家庭裁判所に確認するとよいでしょう。)
④ 双方も戸籍謄本,離婚届出の記載事項証明書
などの必要書類を整えて,管轄の家庭裁判所に提出をすることとなります。
調停申立てがあると,家事審判官が,当事者を尋問するなどの調査を行い,調停委員の意見を聞いたうえで正当と判断したときには,離婚無効の審判がなされることとなります。
調停で無効について合意が成立した場合にも同様の判断がなされます。
(2) 離婚無効確認の訴え
離婚無効について相手方が争う場合には,離婚無効確認の訴えが提起され,訴訟での解決をしていくこととなります。
裁判所は,証拠調べを経て,離婚無効確認の判決を出すかどうかの審理を行っていくこととなります。
(3)戸籍訂正の手続
判決確定の日から1か月以内に役所に戸籍訂正の申請を行い,戸籍上に記載された離婚の末梢を求めていくこととなります。
3 離婚届の不受理制度
離婚届が一旦出されて受理されてしまうとその後に手続きが非常に大変であることがおわかりいただけたかと思います。
そこで,離婚届を勝手にだされないようにするために,不受理申請制度を利用して,離婚届が勝手に提出できない状況を作っておくことが大切となります。
市区町村役場において,不受理申請書を出しておくことで離婚届が無断で出されることを防ぐことができます。不受理届出書は多くは市区町村の窓口などに置かれているため,確認をされるとよいでしょう。非本籍地に離婚届の不受理申出書を提出することも可能ですが,本籍地の市町村長に送付するなどの時間がかかってしまう場合があるので,本籍地の市町村役場に提出されるのがよいでしょう。
用紙や提出時に必要な本人確認書類・印鑑などについては,提出予定の役所に離婚届不受理申請について確認をされたいと聞いておくとよいでしょう。
不受理届出については自由に撤回ができるために,撤回する場合には取下書を提出することとなります。
4 まとめ
勝手に離婚届が提出された場合には,様々な紛争が起きかねない事態となりますので,あらかじめ不受理届出を行うなどの対応が必要でしょう。また離婚については数々の問題が発生しまうことがあるので,弁護士に相談をされておくことをおすすめ致します。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。