成年後見人での被後見人が死亡した場合に葬儀費用はどうすべきなのでしょうか。
□ 成年後見制度を利用しているときの葬儀費用は誰が負担すべきなのでしょうか。
1 成年後見制度とは
成年後見制度とは、精神上の障害により判断能力が不十分なため契約等の法律行為において意思決定が困難な成人(認知症の高齢者、精神障害を持つ者など)について、家庭裁判所が選任した後見人が本人の意思決定の代行を行ったりする制度をいいます。
成年後見人は,本人の権利擁護のために、財産管理業務や身上監護業務を行います。
そして、成年後見人は、本人の法定代理人として法律行為を行う権限を有していますので、一見すると成年後見人の葬儀などを行う権限もあるように思えます。
しかし、成年後見人は、本人が死亡したときには、終了事由となり、成年後見人が成年被後見人に対して有していた代理権も失われることになります(民法111条1項1号)。
したがって、死後事務委任契約などにより成年被後見人が特段の合意がなければ、成年後見人には葬儀を行う権限や義務などはありません。
そのため、葬儀が、人が死亡した後の宗教的儀式全体のことを指すとすると、原則的には、本人の遺族等に任せるべきものとなります。
葬儀に主宰については、慣習に従って,喪主となるべき者が行い,喪主が費用の負担をするといった形となるでしょう。
成年後見人が就任していたとしても、誰が喪主となるのかを慣習などによって判断していくことになっていきます。
ポイント 成年後見人が就任した場合でも死亡により任務は終了。葬儀などは親族などから慣習によって喪主となるべき者が行う。
2 葬儀費用の負担義務について
一般的に葬儀は喪主が行うことがほとんどでしょう。では、葬儀の費用は誰が支払うべきなのでしょうか、相続財産や他の親族に対して負担を求めることはできないのかがよく問題となります。
民法879条1項では、祭祀財産の承継者に関する規定として、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」が存在するのみで、葬儀費用を誰が負担するのかについて、法律上の決まってはいません。
相続財産から支払えばよいと思われるかもしれませんが、葬儀費用については、被相続人が亡くなられた後の相続開始後に発生しますので、葬儀費用は被相続人の遺産には該当しません。
そのため、相続財産から当然に法定相続分に応じて分割して負担すべきものとはいえず、各相続人に負担するということにはなりません。
これまでの見解では、支払うべき費用を葬儀費用として①喪主(葬式主宰者が負担するとする見解)説(葬儀主宰者が負担する見解),②共同相続人説(各共同相続人で負担する見解)③相続財産説(相続財産から負担する見解),④慣習・条理説(慣習・条理によって負担者を決めるとする見解)があります。
名古屋高裁平成24年3月29日判決では、
葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが,
亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。
として、葬儀費用は実質的な葬儀の主催者が支払うものと判断をしました。
この理由として裁判所は、なぜならば,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、
追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であること
遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」と判示した。
また,相続人である被控訴人らが,葬儀費用を負担すべきであると主張する。しかし,葬儀費用は,相続開始後に生じた債務であるから,相続人であるからといって,ただちに葬儀費用を負担すべきものとは解されず,控訴人の同主張は採用できないとしている。
したがって、葬儀について主催者(喪主)が実施し、喪主が費用を負担すべきものということになるでしょう。
3 葬儀等を行う主宰者がいない場合には?
では成年被後見人に身寄りがおらず、喪主(主宰者)がいない場合にはどのようにすべきなのでしょうか。
火葬、埋葬に関する規定ではありますが、墓地埋葬法では、死体の埋葬又は火葬を行う者がいないときには、市町村長が行うといった規定があります。
墓地、埋葬等に関する法律9条では、死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。 2 前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは、その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法(明治三十二年法律第九十三号)の規定を準用する。
埋葬・火葬においてこれを行う者がいないときには、市町村長が行わなければならないとの規定があり、最終的には市町村長が行わなければならないことになります。
一方で、平成28年4月6日に成立した成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律により民法879条の2が新設され、成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限として、必要があるときには、被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合を除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまでに、以下の行為を行うことができるとされました。
民法873条の2 (成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限) 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。 3号 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
家庭裁判所において、成年被後見人の死亡後の死体の火葬に関する契約の締結許可申立書により許可を求め、火葬、埋葬に関する契約締結を行い、相続財産から支出を行うということになるでしょう。
もっとも、ここでの火葬または埋葬については、葬儀は含まれていませんので、注意が必要でしょう。
家庭裁判所に事前に相談をしておき、葬儀を主宰する身寄りが他になく、事務管理としてやむを得ず、成年後見人が行う場合には、被後見人の資産や社会的地位を考慮して社会的に相当な範囲内で行う限りには、成年被後見人の財産からその費用を支出するといったことはありえるでしょう。
4 まとめ
葬儀については慣習などにより親族などが執り行い、葬儀費用については、喪主が負担すべきことが原則となります。成年後見人が就任している場合でも、あくまでやむを得ない事態のときに相続財産からの支出の範囲内でしかできず、身寄りでの引き取りができない場合には、無縁仏をともらう寺院や施設などに依頼することになってしまうこととなります。
生前から葬儀の方法、どのお墓にはいるのかなどについて決めておきたい場合には、事前に死後事務契約や葬儀についての準備をされておくほうがよいかと思います。
成年後見制度は、ご本人の利益のために財産管理などを行うもので、任意後見制度や死後事務契約、遺言などと合わせて今後の高齢者の判断能力が鈍ってきた際には利用を検討してもよい制度ではあります。
成年後見の申立てをなされたい場合には、ぜひ天王寺総合法律事務所にお問い合わせください。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。