夫あるいは妻のモラハラが原因で離婚をすることはできるのでしょうか。
モラハラがある場合には、話し合いで離婚をしようとしても相手の態度で委縮をしてしまい、離婚までもっていくことができないといったことがあり得るかもしれません。
そこで、この記事では、モラハラで離婚をすることができるのかについて解説させていただきます。
1 離婚の種類にはどのようなものがあるか。
離婚をするための方法については大きく分けていくつかの種類があります。
① 協議離婚 (民法763条):夫婦はその離婚の意思を合意することで離婚をすることができます。協議離婚の場合には、離婚届の形式を整えることで比較的容易に行うことができます。もっとも、親権者は決めなければならず、財産分与、養育費、慰謝料などについて合意をしないまま離婚をしてしまうことで後に紛争となってしまうことがあります。
② 調停離婚 (家事事件手続き法244条):夫婦での対等な話し合いをすることができない場合などには、家庭裁判所における第三者を交えての調停で離婚を成立させることができます。あくまで話し合いがベースとはなりますが、調停委員が関与することで法的に妥当な解決を目指しやすい側面があります。調停前置主義のもと、離婚の訴えを先に行いたいとしてもまずは原則は調停を先行させることになります。
③ 裁判離婚(民法770条):協議離婚、調停離婚が成立せず、審判での離婚も成立しないときに、夫婦の一方が離婚原因がある場合に、裁判所の裁判によって離婚が成立するものをいいます。裁判離婚については、離婚原因を主張、立証しなければならず、裁判手続きという当事者の負担が大きい手続きですので、弁護士に依頼をして進めていくことをお勧めいたします。
離婚件数のうち、圧倒的多数が協議離婚であり、調停離婚が10%前後、裁判離婚は1%程度といわれています。
2 モラハラはどの手続きで離婚を行うことがよいのか?
離婚をすることができるのかどうかを考える場合には、離婚原因に該当し、最終的に裁判での離婚を目指すことができるのか、協議・調停で解決をしなければならないのかを考えておくことが必要となります。
民法770条1項各号には、離婚原因として、
① 配偶者に不貞な行為があったとき(配偶者以外の者の肉体関係があったときなど)、
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき(正当な理由なく、同居・協力・扶助義務を履行しないときなど)
③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(生死不明の状況であるとき)
④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(統合失調朝、うつ病、頭部外傷やその他の疾病による精神病によって婚姻共同生活を行うことができないとき)
がありますが、モラルハラスメントは直ちにはこれらには該当しないと考えられます。
そこで、⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由が存在があるときに該当するのかが問題となります。
民法770条1項5号の婚姻関係が破綻し回復の見込みがないときとの規定は破綻主義を定めた一般条項であるとされ、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態を指すと解されています。
破綻が認められるのかについては、双方の意思、言動、別居あるいは家庭内別居の有無とその期間、会話や交流の有無、口論・けんかの有無と程度、性的関係の有無、婚姻期間、円満であった期間の長さ、不破となった原因、信頼関係の破壊の程度、未成熟の子の有無と年齢、子の関係、子の離婚についての意見、訴訟態度などが総合的に考慮されることとなります。
モラルハラスメントについては、単なるケンカや文句程度と言われてしまい直ちに婚姻関係が破綻しているとは言い難い側面があることも事実でしょう。また、立証の側面でも個々にモラルハラスメントの言動を録音をしているわけではなく、長期間の言動が原因であるために立証が難しい面が存在します。
しかし、人格を否定する言動や侮辱的言動、脅迫的言動の内容、回数、原因となった事情を考慮して、客観的に夫婦関係が破綻し、回復の見込みがない場合には、離婚原因となり得る場合が存在します。そのため、モラルハラスメントによって客観的にみて婚姻関係が破綻している旨の証拠を集めておくことが大切となってくるでしょう。
3 モラルハラスメントでの証拠収集について
一般的にハラスメントについては証拠を集めることが難しい側面があります。ハラスメントを行う人々は、妻あるいは夫の立場や地位から正当な理由があるように装って行われるため、発言の前後関係などの立証を行っていかなければならないことがあるためです。
証拠収集についても日ごろからの記録を残して置き、いざというときに利用ができるように準備をしておくことが必要となるでしょう。
① レコーダーでの録音・録画
モラルハラスメントは言葉により脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言などがなされていることが多くあるため、スマートフォンやICレコーダーでの録音をとっておき、どのような場面で発言がなされたのかを保全しておく必要があります。録音については、裁判所に出す場合には反訳文として文章で提出することが必要となりますので、弁護士と相談前に重要な部分を書きだしておくなどをされてもよいかもしれません。
もっとも、断片的に発言の一部分を出したのみであると客観的にみて婚姻関係が破綻される程度のものであるとはいえない部分はありますので、発言の流れ、原因、頻度、影響などを整理していくとよいでしょう。
② 日記での記録
モラルハラスメントは継続的に行われいるため、どの時点でどのような行為がなされたのかをひとつひとつ立証することが難しい場合はあります。それでも長期間にわたる人格否定などがなされていることを裁判所に伝える方法として日記などでどのような攻撃が行われてきたのかの回数を積み上げることがあります。日々になされた具体的な事情が記載され、それを裏付ける証拠を合わせると客観的な婚姻関係の破綻を基礎づける事情となることがありえるでしょう。
③ 医師の診断書
モラルハラスメントが行われたために、精神上の障害が生じているといった場合には、医師により診断書をもらうことは一つの証拠となりえるでしょう。また、医師の適切な指導、治療によりモラルハラスメントの状況を少しでも客観視して、今後どのように行動すべきなのかを整理することができる場合があります。一定の加害行為によって心の傷を負ってしまっている場合には、治療などを受けて記録を残しておくことがあり得るでしょう。
④ 写真・動画
モラルハラスメントの場合に必ずしも暴力が伴う事案ばかりではありません。しかし、身体に対する暴力がなかったとしても、物を投げつけられるなどにより家の物品が壊れるなど何らかの被害が発生している場合があります。家庭内で発生した被害内容について写真・動画で残しておくことで客観的な証拠となることがあります。
⑤ 公的機関での相談記録
配偶者暴力相談センター、子育て支援センターなどの相談記録、警察などで相談を行っておき、相談の記録を利用することも考えられます。もっとも、これらの公的機関での相談記録が開示された内容が証拠として利用できる場合はケースバイケースではあるため、公的機関での相談記録と併せて日記などでどのようなことがあったのかも合わせ合わせて保管しておくことが大切となるでしょう。
⑥ 証言
モラルハラスメントについて熟年離婚など婚姻期間が長期間にあった事例なども存在します。モラルハラスメントの被害を知っている子どもや友人の証言を集めて、どのような事情が存在していのかを立証していくといったことはありえるでしょう。もっとも、証言というものは人の記憶を経ているため、正確性に欠けるため客観的な証拠があることがより望ましいでしょう。
⑦ 別居など他の婚姻関係を破綻する事情
証拠がない場合であっても別居を行い婚姻関係の回復がもはや困難な状況であるといった状況を客観的に示すことによって離婚をすることができる場合もあり得ます。離婚・別居をする場合には、今後の生活設計をどのようなものにするのか、別居をすることで財産分与での証拠収集が不十分に終わる場合も存在しますので、今後どのように証拠収取・行動をしていくべきなのかを弁護士と相談していくとよいでしょう。
4 1年余りの別居期間を経て婚姻を継続しがたい重大な事由があるとされた事例
大阪高裁平成21年5月26日判決では、
夫は、妻と約18年にわたり大きな波風の立たないまま婚姻生活を送ってきていたが,80歳に達して病気がちとなった夫がかつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるごとく、
① 妻が、日常正活の上で夫を様々な形で軽んじるようになった上,
② 長年仏壇に祀っていた夫の先妻の位牌を無断で親戚に送り付けたり,
③ 夫の青春時代からのかけがえない思い出の品々を勝手に焼却処分したりしたこと
などから,
④ 妻と別居するようになった事案で
こうした妻による自制の薄れた行為は,夫の人生に対する配慮を欠いた行為であって,夫の人生の中でも大きな屈辱的出来事として心情を深く傷つけるものであったこと,それにもかかわらず,妻に夫が受けた精神的打撃を理解しようとする姿勢に欠けていることなどを踏まえて、夫と妻の婚姻関係は修復困難な状態に至っており,別居期間が1年余りであることなどを考慮しても,夫と妻との間には婚姻を継続し難い重大な事由があると認めるのが相当であるとの判断がなされました。
この裁判例では別居期間は比較的短い場合であっても、他の事情を総合すれば、婚姻関係が破綻しているといえる場合が存在していることを示していると考えられます。また、配偶者に対する重大な侮辱的行為として、第三者からみても、精神的に耐えがらないような離婚を求める程度の行為がなされている場合には、離婚ができると判断がなされることがありえることとなるでしょう。
5 別居期間が4年10か月余りにわたる夫婦について,婚姻関係が既に破綻しており回復の見込みがないと認めて離婚請求を認容した事例
東京高裁平成28年5月25日判決では、
第一審の裁判所は、婚姻関係破綻の原因として主張する事実は、その存在自体が認められないか、存在するとしても、性格・考え方の違いや感情・言葉の行き違いに端を発するもので
夫のみが責を負うものではなく、妻の言動にも問題があること、夫の同居中の言動には相互理解の姿勢に乏しいものがあったが、音は真摯に反省し,妻との修復を強く望んでいること、同居期間(約10年間)に比べて別居期間(約3年5か月間)は短いなどとして,離婚請求は認められないと判断に対して、
妻と夫とは、平成14年に婚姻し、同居生活を続けたものの、遅くとも平成18年頃からは言い争うことが増えたこと、妻は夫の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり、平成23年頃から神経科を受診し始めたこと、平成23年には、長男が所在不明となったことを契機として、夫の対応に失望して、妻が長男を連れて別居に至った事案として、本件別居の期間は,現在まで4年10か月間余りと長期にわたっており,本件別居について夫に一方的な責任があることを認めるに足りる的確な証拠はないものの,上記のとおりの別居期間の長さは,それ自体として,夫と妻との婚姻関係の破綻を基礎づける事情といえると判断しました。
また、妻は、別居後は一貫して離婚を求めており本人尋問においても離婚を求める意思を明らかにしていること、
他方、夫は、本人尋問において、関係修復の努力をする趣旨の供述を行ったが、婚姻関係の修復に向けた具体的な行動ないし努力をした形跡はうかがわれず、かえって、婚姻費用分担金の支払いを十分にしないなど、修復に向けての意思を有していることに疑念を抱かせる事情を認めることができるとして、
別居期間が長期に及んでおり、その間、夫により修復に向けた具体的な働き掛けがあったことがうかがわれないこと、妻の離婚意思は強固であり,夫の修復意思が強いものであるとはいい難いことからすると、婚姻関係は,既に破綻しており回復の見込みがないと認めるべきであるとして、離婚を認容する判断をしました。
モラルハラスメントなどにおいて、別居についての責任があることを立証できる証拠を利用していくことがよい一方で、別居期間などを踏まえて、離婚が認められることがありえることにはなるでしょう。
6 まとめ
モラルハラスメントで離婚が認められるのかについては、事案や証拠によってさまざまであり、モラハラの発言があったから直ちに離婚が認められるといったものではなく、客観的にみて破綻を認めることができることが必要となってきます。証拠の収集や今後の離婚について対応をしていくためには、弁護士に相談をして準備をしていくことが大切となりますので、離婚でお悩みの方はぜひ一度弁護士にご相談ください。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。