破産と離婚をしたい。どのタイミングで手続きをしたらよいのでしょうか。
想定事例
夫の浪費が激しく、破産手続きをすると聞いています。このままでは夫婦生活を続けることができないため、離婚をしたいのですが、破産手続きと離婚手続きをするタイミングはどのようにしたらよいのでしょうか。
弁護士の回答
① どちらの手続きを先行させるのかについては、離婚の見通し、破産の見通し、財産の状況などによって大きくことなりますが、離婚が早期に実現する見込みが低いのであれば破産手続きを先行させるといったことが考えられるでしょう。
② 財産状況などをみて、今後どのようにしていくべきかを検討しなければなりませんので、弁護士に相談をしておくことをお勧めいたします。
離婚に至る理由には様々なものがありますが、夫の浪費などが原因でこれ以上の夫婦生活を続けることができないと思うことがありえるでしょう。
では、離婚と破産とのタイミングをどのように行っていくべきなのでしょうか。
このページでは、離婚と破産のタイミングについて解説させて頂きます。
1 破産は離婚をする理由とあるのか。
そもそも浪費や破産は離婚原因(民法770条1項5号)となるのか。
1号 不貞行為
2号 悪意の遺棄
3号 生死3年以上不明
4号 強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき
には該当せず、5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうかが問題となります。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が客観的にみて破綻に至っているのかをそれぞれの離婚の意思、別居の有無、夫婦での会話・喧嘩の有無、信頼関係の破壊の程度、未成熟の子どもの有無など総合的に判断されることとなっています。
浪費、破産については、直ちには離婚の原因となるわけではありません。
しかし、浪費や破産がなされることによって夫婦婚姻生活が破綻に瀕しているといった場合には、別居などの他の離婚の事情と合わせて、離婚の原因となることはあり得ます。
協議離婚、調停離婚においては、当事者において離婚の合意ができた場合には、離婚ができることとなりますが、
離婚訴訟となった場合には、離婚の原因の有無が争点となりますので、合意で離婚ができる見込みがあるのか、訴訟で離婚をしなければならないことがあり得るのか、含めてタイミングを相談をしておくとよいでしょう。
2 離婚後に破産をするのか、破産後に離婚をするのかの区別
離婚について一定の見込みがあり、次に破産をすることができるのかも検討することとなってきます。破産をするためには、「支払不能」という要件を満たすことが必要となります。また、財産をどこまで清算しなければならないのか、破産管財事件となるのか、免責許可事由があるのかを検討していくこととなります。
破産手続では、自由財産として99万円までは財産を残すことができるものの、保険の解約返戻金評価額、退職金などの個別財産が20万円を超える場合には、破産管財事件となり、管財予納金20万5000円~(各裁判所によって異なります)や財産関係のチェックが行われることとなります。
離婚時点において、個別の財産処分が不相当な財産処分であった場合には、財産の譲渡を否定して、お金の引き戻しを行うといったことがあり得ます。
そのため、破産をした場合の見込みといったものが大切となってきます。
・破産手続きにおいては、短くても数か月~1年
・離婚手続きにおいては、協議離婚であれば、数日で終わるパターンもあれば
裁判離婚として、数年がかかるパターンがあります。
したがって、破産と離婚にそれぞれかかる見込みを確認して、破産と離婚のどちらをいつするのかのタイミングを考えていくこととなるでしょう。
2 離婚後に破産をする場合
(1)離婚後に破産をする場合にはどのようにするのか
離婚をする場合には、協議離婚、調停離婚において離婚の合意ができるか、裁判離婚によって離婚をすることが考えられます。
裁判離婚となる場合には、調停前置主義のもと一定期間は離婚調停の期間を挟むため、早くとも1年から数年程度の期間がかかることとなるでしょう。
当事者で離婚に合意ができる場合には、離婚協議書などを作成することで、離婚自体を早期に解決することができるでしょう。
既に財産がなく財産分与などが考えにくい場合や離婚原因が双方にあるために慰謝料請求など財産の移転がない場合には、財産関係、家計収支表などを明確とするために、離婚手続きを早期に行ってしまうといったことが考えられるでしょう。
(2)財産分与請求権について
財産分与については、離婚時に、夫婦共有財産の清算を適正にしている場合には、破産前に財産分与を行っていたとしても問題にはならないことが多いでしょう。
財産分与のうち、夫婦共有財産の清算については、1/2は離婚をする他方の配偶者の者と考えられるため、金額の算定時の資料を示すことができれば、適切な財産分与ができていることとなるでしょう。
一方で、破産と離婚を検討する場合には、早期に離婚をして財産を確保しようとする財産隠匿目的の離婚であったという場合があり得ます。
最高裁昭和58年12月19日判決は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産分与であると認めるに足りるような特段の事情がない限り、詐害行為取消しの対象にならないと判断しています。
そのため、離婚の前に、財産分与を行う場合には、不当な財産散逸とならないように注意をすることが必要となるでしょう。
財産分与については、離婚後2年以内であれば、財産分与請求権をすることはできますが、破産手続において、破産債権として免責されることとなりますので、破産後に財産分与請求権を求めていくことは困難となってくるでしょう。
(3)養育費
では、離婚後に破産をした場合には、養育費の支払いはどのようになるのでしょうか。
破産法253条1項4号ハによれば、養育費については、非免責債権となっています。
そのため、離婚時点で定めた養育費について引き続き請求を行うことができることとなってきます。
過去の養育費について未払い分があった場合には請求をすることができることとなるでしょう。
(4)離婚慰謝料・不倫慰謝料
慰謝料請求権があった場合には、既に一定の金額を受け取っている場合には、支払不能などに陥り、偏波弁済となっていない場合には、金額を受け取れることはできるでしょう。
一方で、支払不能状態であった場合には、慰謝料を名目として財産隠匿目的とされる場合にあれば、否認権の行使を受ける可能性があり得るでしょう。
離婚時に不倫慰謝料の合意をしたものの、分割支払いとなっており、その途中で破産をした場合には支払いを受けることができるかが問題となります。
破産法では、破産者が悪意で加えて不法行為に基づく損害賠償請求権、故意または過失により加えて人の生命または身体に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、非免責債権とされており、不貞行為に基づく損害賠償請求権がこれらに該当するのかは争いがあるでしょう。
離婚慰謝料については、財産分与や子どもの養育費などが含まれ、親族関係にかかる請求権が非免責とされる場合があり得ます。
したがって、離婚後に破産をした場合には、免責により慰謝料について請求できない状態があるのが原則ですが、非免責となる類型もあるため、その性質を検討しておくこととなるでしょう。
(5)離婚時に多額の金銭が授受されている場合には破産管財人が選任されることも
上記のとおり、財産分与は、不相当に過大で、財産分与に仮託された財産処分であると認められるに足りる特段の事情がない限りは、詐害行為取消権の対象とはなりません。
一方で、債権者からは、どのような財産処分かがわからないため、多額の金銭が授受されている場合には、破産管財人がついて財産の譲渡の根拠、金額などをチェックしていくことが必要となります。
財産分与などの金額が20万円を超えてる金額の支払いがある場合には、破産管財人の選任が必要となるケース、金額が不相当な場合には、否認権などを行使して、財産の返還を求められる場合もありえるでしょう。
(6)まとめ
離婚後に破産をする場合には、早期実現の可能性はあるか、不相当な財産処分とならないといえるかなどを検討し、離婚後に破産を選択するといったことがあり得るでしょう。
3 破産後に離婚をする場合
破産後に離婚をする場合には、夫のみが破産する場合には、妻の財産名義の財産は清算対象の財産とはならないのが原則です。
夫婦であっても、あくまで個人の名義の財産が対象となってきます。
もっとも、夫婦間の財産給付に仮託して、財産を移転していた特段の事情がある場合には、詐害行為取消権などにより財産を戻すよう求められる場合があり得ます。
破産後の財産状況において、離婚手続きを進めていくこととなるでしょう。
(1)財産分与請求権
財産について、破産手続きにおいて清算がなされているため、破産を行った配偶者には自由財産(99万円)を除いてほとんど財産がない状態となるでしょう。
(2)養育費
破産をした後にも養育費の支払いを求めていくことは可能となります。
それぞれの収入から基礎収入を算定し、養育費を算定していくこととなるでしょう。
(3)慰謝料
慰謝料については、破産前に判明していた不法行為に基づく損害賠償請求権については、免責を受けてしまう可能性があります。そのため、慰謝料請求を検討している場合には、破産手続がいつとなるのかは検討をしておくことが必要となるでしょう。
(4)破産管財人は関わらない可能性があり
離婚前に破産をしていた場合には、財産関係について既に清算されていること、財産分与において破産管財人のチェックを得る必要などがないため、財産関係としては離婚時に整理して進めることができる場合があります。
破産手続きを先行させていた方が先に手続きが終了するとして、離婚の前のタイミングで破産手続きを終わらせておくといったことも選択肢となるでしょう。
4 まとめ
離婚と破産については、それぞれが共に問題となるといったことがあります。
同時に手続きを進めていくと破産手続きや離婚手続きのそれぞれにおいて財産関係の清算に支障が生じる可能性があるため、どちらかの手続きを先行させるなど工夫をされるとよいとは考えられます。
いつ、どの時点で、どちらを先に行うのかについては、離婚手続きの見通し、破産手続きの見通し、財産関係の見通しによって異なってきますので、弁護士に相談してすすめていかれるとよいでしょう。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。