親権喪失,親権停止,児童福祉法28条承認審判制度とは?
✅ 親権者と定めた親が子どもを虐待していることがわかりました。子どもを助けたいのですがどのように対応をしたらよいのでしょうか。
1 親権とは何か。
親権は,未成熟の子どもに対して,子どもの福祉のために,身上の監護,財産上の監護・をする権利義務を行う権限であり同時に責任を負うものとなります。
民法820条は,親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,同時に義務を有することを明確にしています。
親権には身上監護権,財産管理権といった権限があります。
身上監護権として,
・子どもの住まいをどこにするのかという居所を指定する権利(民法821条)
・子どもにしつけをする懲戒権(民法822条)
・子どもがアルバイトなど仕事に就くことを許可するかどうかという就業許可権(民法823条)
などがあります。
財産管理権として,
親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし,その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意を得なければならない(民法824条)
と規定がなされています。
親権者は,子どもの財産を管理するために,子どもの財産を保存することや改良すること,子どもの教育のために財産を処分することといったことができることとなります。例えば,子どもが専門学校に行きたいといった事情がでてきた場合に,子どもの財産を処分し,学費を捻出するといった場合には,親権者の権限としてこれを行うことができる場合があります。
親権者と子どもとの間に利益相反の関係がある場合には,子どもの利益のために,特別代理人を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法826条)。親権者は,財産管理においては,自己の財産と同一の注意をもって管理をしなければなりません(民法827条)。
このように親権者は子どもの身上監護,財産管理について子どもの利益となるべき行使を行う権限と責任を負っていることとなります。
2 親権者の変更手続き
親権者として子どもの身上監護,財産管理は子どもの利益となるように行わなければならず,懲戒権を超えた虐待を行うことは許されません。
親権者を定めた場合においても,子の利益のために必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって親権者を他の一方に変更することができるとの規定があります(民法819条6項)。親権者の変更は,家庭裁判所の審判・調停が必要となります。
親権者の変更を認める場合は,子ども意思,希望,現状の尊重などの様々な事情が考慮されます。
本来は,親権者を定める際に,予想された事項や事情の変更を要する事情が認められる必要性があり,通常の親権者としての権限行使の範囲内に収まっている場合には,なかなか認められることは難しい部分があります。
一方で,客観的・外形的に懲戒権を超えるレベルの虐待などの事情があった認定できる場合には,親権者の変更手続きが認められることはあり得るでしょう。
緊急性がある場合には,家庭裁判所は,強制執行を保全し,子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときには,仮処分等の必要な仮処分などの保全処分をすることができます(家事事件手続法175条)。
虐待などの親権者変更を行わなければならない事情がある場合には,早急に証拠をそろえて親権者変更調停・審判の申立て,保全手続きを行うこととなるでしょう。
3 児童相談所の通告,施設保護,児童福祉法28条の審判
虐待などの事情がみられる場合には,早急な対応が必要となります。
児童虐待防止法に基づき児童虐待にかかる児童相談所に通告を行うことが考えられます。
児童福祉法28条には,保護者が,その児童を虐待し,著しくその監護を怠り,その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において,都道府県は,施設入所等の措置を取ることができる旨が定められています。児童相談所は,親権者の同意がない場合には,家庭裁判所で28条1項の承認審判を得ることで,施設保護を実現していくこととなります。
子ども自身が,子どもシェルターを利用して緊急避難を行うといった場合もあり得るでしょう。
4 親権喪失手続き
民法834条には,父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,一定の申立権者の請求により,親権喪失の審判をすることができるとの規定があります。
虐待や悪意の遺棄があるときや精神的な病気などにより親権の行使が著しく困難・不適当であることが必要となります。親権の喪失は親権を失わせるものであり,インパクトのある手続きであるため,家庭裁判所も慎重は判断を行うこととなります。
5 親権停止手続き
民法834条の2には,父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,一定の申立権者の請求により,親権停止の審判を請求することができます。これは,従来は,親権喪失手続きしかなく,親権喪失がインパクトのある手続きであったために,適用できる事案が限られているとの問題がありました。
そこで,最大2年間という制限を設けて,原因が消滅するまでに要すると見込まれる時間,子の心身の状況及び生活の状況その他の事情を考慮して,親権停止の期間を定めることができるようになりました。
親権喪失・親権停止の審判については,子どもの壽処置を管轄する家庭裁判所に審判の申立てを行うこととなります。手続きは非公開で,15歳以上の場合には子ども陳述や親権者の陳述を聞いていくこととなります(家事事件手続法169条1項)。
親権喪失や親権停止審判が出るまでに必要性がある場合には,親権喪失,親権停止の保全処分を行うことができます(家事事件手続法174条)。
家庭裁判所は,親権喪失,親権停止の申立てがあった場合において,子の利益のために必要があると認める時は,審判の効力が生じるまでの間に,親権者の職務の執行を停止し,その職務代行者を選任することができることとなります。
子どもの親権者の親権行使が不適切であったからといって直ちに親権の変更などができるわけではありません。しかし,それらが虐待といったレベルに至っていた場合には早急に対応が必要となります。現在,どのような状況にあるのか,どのような手段を取ることができるのかといった点について専門家に意見を相談,依頼を行い,手続きを進めていくとよいでしょう。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。