モラルハラスメントは離婚原因となるのでしょうか
Q 夫から長年にわたって、ことあるごとに嫌味を言われ続けてきました。主婦をしているときには、料理がまずい、こんなこともできないのか、誰のおかげで生活できているんだと、突然大声をあげて怒ってくる、気に入らないことがあると不機嫌になって物に当たる、生活費を渡さないといったことが繰り返されてきました。このままではいけないと、少しでも働こうとすると、外で遊んでいる、仕事をなめるな、外に男をつくっているのではないかと何度も電話をしてきます。心身ともに参ってしまいました。夫はモラハラ夫だと思っているのですが、離婚をすることはできないのでしょうか。直接的な暴力を振るわれるといったことはないのですが、離婚の話をすると何をしてくるのかわからず非常に怖いです。
(※質問は仮想の事案)
弁護士の回答
配偶者からの度重なる暴言や侮辱的な言動、脅迫的な言動によって、婚姻関係が客観的に破綻に至り、婚姻を継続し難い重大な事情といえる場合として離婚を裁判所において求めていくことが考えられるでしょう。
1 モラルハラスメント事案での離婚の進め方
離婚をする手段には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚といった手段が存在します。
厚生労働省の人口動態統計などによれば、年度によって異なるものの、離婚件数のうち80~90%近くが協議離婚により成立しており、協議離婚で離婚となっています。そのため、夫婦間で離婚を行う場合には、協議で行うことができれば、もっともスムーズなケースでしょう。
しかし、モラルハラスメントの場合には、夫婦関係で対等な関係で協議を行うことができず、怒りに任せて嫌がらせをさえるなどとても話し合いでは解決が難しいといった事態があり得るでしょう。
したがって、モラルハラスメントがある事案では、協議離婚で解決するとしても、第三者である弁護士や裁判所において調停委員を入れるなどの対応をすることが望ましいでしょう。
また、長年のモラルハラスメントで精神的に参ってしまって同じ家にいる場合には平穏に生活をすることが難しい場合があります。被害を受けているときには冷静な対応が難しいことがありますので、別居を行う、実家に帰る、友人の助けを得て対応をするなど別居をすることについて対応を考えておくべきでしょう。
2 裁判離婚をする場合には、離婚では離婚原因が必要となります。
家庭裁判所での離婚をする手段として、調停離婚と裁判離婚があります。調停離婚は、調停員を間に挟んだ話し合いであり、他の離婚案件に関わってきた調停委員からの助言などを得て、離婚に至れることも少なくありません。
しかし、調停離婚はあくまで、当事者が合意をしなければ離婚をすることができません。
モラハラ夫の案件によっては、妻をあたかも自分のもののように考えて、自分には何の非難されることはないといった主張をしてくることがあります。反省や悪いところがないために、なぜ妻が離婚を求めてくるのかわからない、男がいるに違いないと発言していくこともあります。そのため、調停離婚でスムーズに離婚が成立するとは限りません。
そこで、最後の手段である裁判離婚ができるようにするため、離婚原因があるかを確認しておくことが必要となるでしょう。
離婚原因は、民法770条には
① 配偶者に不貞な行為があったこと
② 配偶者から悪意で遺棄されたこと
③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないこと
④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
といったことが列挙されています。人格を否定するような暴言、侮辱的な言動、脅迫的な言動といったモラルハラスメントについては、①~④号には該当しないため、⑤号のその他婚姻を継続し難い重大な事由があることにあたるかが問題となります。
モラルハラスメントについては、単なる夫婦での口喧嘩や性格の不一致に過ぎないとして離婚原因に当たらないと考えられることはあり得ます。
しかし、夫婦間であったといえども、人の人格や侮辱的な言動などについては、精神的な虐待などにあたるとして、婚姻関係を継続していくことが困難であるということができるでしょう。そのため、モラルハラスメントの具体的内容を主張、立証していくことで、離婚原因として認められることがあり得るでしょう。
3 モラルハラスメントについての証拠の収集と別居期間を準備しておく
モラルハラスメントについては、嫌がらせ行為であるため、個々の立証は一定程度困難さが伴うことがあり得ます。メールやLINEなどで嫌がらせ行為を立証できる場合にはよいのですが、なかなか証拠がそろっていない場合があり得ます。モラルハラスメントのすべてを証拠で立証することは難しいものの、日記や会話の録音から一定程度の立証をできるよう準備をしておくことが大切でしょう。
また、上記で示した通り、モラルハラスメント事案では、実家に帰るなど別居を行っておくことで、婚姻関係を継続し難い重大な事由を基礎づける要素として主張することがあり得ます。離婚調停などについては早くても6か月から1年程度かかる場合がありますので、モラルハラスメントの証拠と別居期間が存在していくことを揃えることで、客観的にみて婚姻関係が修復困難な情痴にあるとして、離婚が認められることがありえるでしょう。
4 財産分与、養育費などについて見通しを弁護士を立てて準備を
モラルハラスメント事案においては、離婚をすることが大きな目的となってしまし、財産分与や養育費にまでなかなか準備を進めることが難しいことがありえます。しかし、財産分与は夫婦共有財産の清算であり、これまでの夫婦関係の清算として受け取るべきお金となります。また、養育費については子どもの将来のために子どものためのお金であり、支払いを受けていくことが大切となるでしょう。今後の生活再建を行う上でも法的に認められるべきお金についてはしっかりと受け取るべきでしょう。
したがって、モラルハラスメントで離婚をする場合には、弁護士に相談をしておくとよいでしょう。天王寺総合法律事務所では、離婚事件を取り扱う弁護士が所属しておりますので、モラルハラスメントで離婚をされたい方はぜひお気軽にご相談ください。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。