婚約破棄で慰謝料請求は認められるのでしょうか。
男女関係などで別れるといったことに至ったとしても直ちに慰謝料請求が認められるわけではありません。
では、どうようなレベルに至っていた場合には、慰謝料請求が認められるのでしょうか。
このコラムでは、婚約破棄での慰謝料請求が認められる場合について大阪天王寺の弁護士が解説させていただきます。
1 婚約とは何か
まず、男女関係が破局に至ったとしても、法的に保護されるレベルでなければ損害賠償請求を求めることはできません。
そこで、婚約という合意を行い、当事者が婚姻の成立を期待していると法的に評価される水準に至っていることが必要となります。
婚約とは、将来夫婦になろうとする男女間の合意があれば成立することとなります。
婚約という合意については、何らかの形式や届出は必要はありません。
古い大審院時代の判断ではありますが、大審院昭和6年2月20日判決によれば、然れども所謂婚姻の予約なるものは結納の取交せその他慣習上の儀式を挙げよってもって男女間に将来婚姻をなさんことを約したる場合に限定せらるべきものに非ずして男女が誠心誠意をもって将来に夫婦たるべき予期の下にこの契約をなした場合であると判断しているため、誠心誠意をもって合意をすれば婚約をすれば成立することを判断がなされています。
婚約の成立した場合には当事者は互いに、将来夫婦として共同生活を実現していくなど、将来婚姻の届出をしなければならない義務を負うこととなります。
そのため、婚約を正当な理由なく破棄した場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求、又は婚約破棄が社会的に法の許容しない違法なものと認められる場合には、不当破棄を行った者は、婚約者として地位が破壊したことについて不法行為に基づく損害賠償請求をすることができることになります。
相手方の責任で婚約を破棄せざるを得ない場合にも、解消した者から相手方に対して婚約破棄を誘致してものとして損害賠償請求ができる場合があります(最高裁昭和27年10月21日判決)。
婚約破棄に基づく損害賠償請求が認められるのかについては、①婚約が成立していたのか、②婚約解消の正当事由が存在するのかが問題となってくることが大切となります。
2 婚約の立証のハードル
婚約については、当事者の合意で成立するものの、何らかの外形的な事実が伴わないと客観的に合意があったのかどうかを判断することは難しいこととなります。
裁判例によっては、一般論としては、婚約(婚姻の予約)については、諾成契約であるから、当事者が真実夫婦として共同生活を営む意思で婚姻を約したものであれば足り、必ずしも同棲を伴う必要はなく、また、結納などの特段の方式も不要ではあるけれども(最高裁昭和38年9月5日)、何ら外形的な事実関係を伴わない場合には、両者間における婚約の成立については相当慎重に判断する必要があるというべきと判断がなされています。
そして、外形的な事実関係として、当事者の間にとどまらない婚姻の成立を徴表する事実として、
① 結納の儀式
② 婚約の念書(合意書)
③ 婚姻届用紙の署名と交付
など真摯な婚姻の意思とその予約の合意を推認させる証拠があるかを検討することとなるでしょう。
また、婚姻の成立を肯定する複数の事実、証拠を上げていくことでより婚姻の予約を推測させることがあるでしょう。
④ 性的関係が継続してきたか、妊娠をした事情があるか
⑤ 婚約指輪が交わされているか
⑥ 同居のために住居・備品等を購入しているか
⑦ 結婚式場の下見や予約
⑧ 互いの親族への婚約者としての紹介、結婚式の発送
など第三者を含めた外形的な事情が存在するのかを検討していくことになるでしょう。
したがって、単に当事者内だけでのメールや手紙、恋愛感情を示すにすぎない書面のみでは直ちに法的に保護に値する婚約に至らないと判断されることがあり得るでしょう。
3 破棄について正当な理由があるか。
婚約解消の破棄に正当な理由がある場合には、損害賠償責任を負わないことがあります。
① 婚約によって当事者に形成された関係性
② 解消に至った双方の行為
③ 最初の合意成立に至った事情
など様々な事情が考慮されることになっています。
判例は、性格の不一致、用紙に対する不満、年回り、親の反対などでは不十分であるとして、解消の正当性、慎重に判断される傾向があるとされています。
全体として、婚約の成立、破棄の正当事由については、客観的な証拠によりどこまでの推論が可能であるのかが問われることとなりますので、婚約破棄に基づく損害賠償請求が認められるについては、よく検討をしていくとよいでしょう。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。