成年後見人などの解任はどのような場合には認められるのでしょうか。
1 後見人の解任について
民法846条では、後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任意に適しない事由があるときには、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人、その親族、検察官の請求又は職権で解任をすることができる旨が規定されています。
成年後見制度では、精神上の障害により判断能力が不十分な成年者などを保護するための制度をいい、後見、保佐、補助の各制度が設けられています。それぞれの状況におうじて適切な身上監護、財産管理の支援を行うこととなります。
成年後見人の職務は、精神上の障害に十分な意思判断ができない者を救済するために、被後見人の身上監護、財産管理などを公的に支援する制度となりますので、公益的役割を負っているものとなります。
したがって、後見人の解任については、限定的な場合にのみ認められることとなっています。
2 後見人の解任事由とは
民法では、後見人の解任事由として
① 不正な行為
② 著しい不行跡
③ 後見の任務に適しない事由
があることが必要となります。
① 不正な行為とは、財産管理に関する違法または社会的に非難されるべき行為をいいます。具体的には、成年後見人が被後見人の財産を自身の利益のために使い込む行為については、横領などの犯罪であり、違法または社会的に非難されるべき行為をいいます。
また、例えば、成年後見人が多額の借財を行うために、被後見人の土地、建物を抵当権などの担保に入れて抵当権の実行を受けるなどを招く行為は利益相反となる違法な行為となるため、不正な行為となるでしょう。
② 著しい不行跡とは、品性または操行が甚だしく悪いことをいいます。
成年後見人の生活の乱れが、被後見人の身上監護、財産管理において不適切となり、財産減少などを招く危険性がある場合には、著しい不行跡となって解任が認められる場合があります。
③ その他後見人の任務に適しない事由とは、成年後見人としての善管注意義務違反、任務懈怠、病気などにより後見人として、後見人としての職務を行うことができなくなる場合をいいます。
成年後見人の義務としては、身上監護、財産管理についての権限を有しており、本人の意思尊重を支援することとなっています。本人による意思決定を支援し、その決定された意思が尊重されますが、身体や財産に関して重大な不利益が生じるおそれがあるときには、本人の利益となるように行動することとなります。後見人と被後見人との意向が反していたとしても、それが本人の身体や財産に関して不利益を生じさせないなどの配慮によって被後見人の意向を実現できない場合には、それだけで直ちに任務に適しない事由とは言い難いこととなるでしょう。
また、よく問題となるものとしては、被後見人の親族と後見人との関係で、意向をかなえてくれないといった場合が考えられます。被後見人の親族が、成年後見人の申立てについて、被後見人の財産を親族で利用したい意図をもっていた場合には、成年後見人は被後見人の財産を適切に管理、守るために行うことが求められているのに対して、これまで以上に自由に被後見人の財産を利用できなくなるために不満が生じることがあり得ます。
したがって、後見人が親族の思うように行動してくれない、単に気に入らないといった理由によって後見人を解任を行っていくことは困難となるでしょう。
実際には、家庭裁判所からの指導や後見監督人からの報告などの家庭において、解任事実の存在が生じ、家庭裁判所の調査官は解任事由があると思慮する場合には、家庭裁判祖の裁判官に報告することとなります。
家事事件手続規則79条 家庭裁判所調査官は、成年後見人に民法846条に規定する事由があると認めるときは、その旨を家庭裁判所に報告しなければならない。
2 前項の規定による報告は、次に掲げる事項を記載した報告書によってしなければならない。
一 解任すべき成年後見人及び成年被後見人の氏名及び住所(成年後見人が法人である場合にあっては、名称及び住所)
二 成年後見開始の原因及び年月日
三 第一号の成年後見人が就職した年月日
四 解任すべき事由
五 その他参考となる事項
3 成年後見人の解任の申立て手続きについて
(1)申立権者
成年後見人の解任の申立権者としては、成年後見監督人、成年被後見人などの本人、親族、検察官(民法846条等)。
(2)管轄
後見開始等の審判をした家庭裁判所(家事事件手続法117条2項・128条2項・136条2項)。
(3)申立て
【家事審判申立書】
【添付書類】
① 申立人の戸籍謄本(本人の親族が申立人である場合)
② 本人の戸籍謄本、住民票の写し、または戸籍附票の写し、後見登記事項証明書
【申立て費用】
① 手数料 収入印紙 800円
② 予納郵券切手 各家庭裁判所で確認されるとよいでしょう。
(4)職権による申立ての場合には、下記のような経緯で発覚することがありえます。
ご親族などから事実上は、成年後見監督人に調査を依頼するなどして、申立てを依頼していくといったことはありえます。
① 後見人は家庭裁判所に対して、報告を行うこととなります。そのため、家庭裁判所が高検事務の監督を行うなかで、解任事由の存在を認知した場合には、職権発動がなされる場合がありえます。
家庭裁判所調査官が、後見事務の監督に関する処分事件の調査家庭で、解任事実の存在を調査する場合があります。
② 被後見人の親族が後見人の解任の申立てが期待できない場合
(5)審理の流れについて
家庭裁判所は、後見人等を解任する場合には、後見人本人の陳述を聞かなければならないとされています(家事事件手続法120条第1項4号・5号)。
家庭裁判所の解任事実があるといった場合には、解任の審判を行います。
解任事実が認められない場合には、申立却下の審判を行い、後見監督人、被後見人、親族などから、即時抗告をすることができます(家事事件手続法123条第1項4号・5号)。
成年後見人等を解任する審判が確定した場合には、書記官は、遅滞なく、後見登記法における登記嘱託を行うこととなります。
3 まとめ
後見人の解任については、横領などの違法行為があった場合などが考えられます。
そのため、家庭裁判所や後見監督人などに報告し、解任の申立てなどを行うことが考えらえるでしょう。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。