任意後見制度とは何ですか。

任意後見制度とは何ですか。

任意後見制度とは何ですか。

任意後見制度があるといった話を聞いたことがあります。どのような場合に任意後見制度を利用したらよいのでしょうか。


任意後見制度の概要と任意後見を実施するために必要な任意後見監督人といった制度について、大阪堺出身の弁護士が解説させていただきます。

1 法定後見制度と任意後見制度

 精神上の障害(認知症、知的障害、精神障害など)のため、社会生活を送っているうえで必要な判断能力を有しない状態になった場合に、その人を保護し、財産管理などを支援するために、後見制度が存在します。
後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。

(1)法定後見制度

 法定後見制度には、本人の判断能力が欠ける常況となった場合などに、本人や配偶者、四親等内の親族、市区村長などの一定の申立てにより家庭裁判所により、審判で成年後見人、保佐人、補助人を選択するものです。
 法定後見制度には、成年後見人、保佐人、補助人があり、それぞれにおいて代理権、同意権、取消権などをもって本人を保護していくこととなります。

(2)任意後見制度

 任意後見制度として、委任者が、受任者に対して、精神上の障害により事務を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約をいいます。
 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によって定めることとなります。任意後見契約に関する法律には様々な規定があり、自分が選んだ任意後見人候補者に委託するものとなります。
 任意後見契約が結ばれると法務局の後見登記等ファイルに一定の事項の登記がなされます(後見登記等に関する法律5条)。
 契約を締結したとしても、直ちに効力が発行するわけではなく、本人と任意後見受任者との間で任意後見契約が結ばれたのち、本人の判断能力が不十分な状況になったとき、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者から、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てがなされ、任意後見監督人が選任されたとき、効力が生じることとなります(任意後見契約に関する法律2条)

(3) 任意後見と法定後見の関係

 任意後見契約が締結され、登記がなされている場合には、原則として任意後見が優先され、法定後見(成年後見、保佐、補助)の申立ては却下がなされます。ただし、本人の利益のために特に必要であると認められれば、家庭裁判所は法定後見を開始する審判をすることができます(任意後見契約に関する法律第10条)。本人の利益のために特に必要があるとみとめられるかどうかは、本人の自己決定の尊重と本人の保護の必要性から判断がなされます。
 例えば、任意後見契約では代理権行使が原則であり、同意権や取消権はありません。本人の状況として、浪費傾向があり、同意権、取消権を行使する必要性が高い案件であった場合には、本人の利益のために特に必要がある場合と判断される可能性があるでしょう。
 また、本人は施設入所を希望し、本人保護のためには施設入所が望ましい場合でも任意後見契約では、施設入所契約が締結されていないとして、本人の利益のために特に必要性が高いと判断されることがあり得るでしょう。

2 任意後見制度の概要

(1)任意後見契約が結ばれる場合

① 将来に備えて任意後見契約を締結する場合(将来型)

 老後に備えて判断能力が十分である時期に、将来、判断能力が不十分となった場合に備えて信頼できる者に対して後見事務を委託し、任意後見契約を締結することがあります。将来、事理弁識能力が不十分な状況な状況に至った場合に、本人の同意を得て、任意後見監督人の選任を求めていくこととなります。

② 直ちに任意後見契約を実行する場合(即効型)

 判断能力が低下している時期において、当該契約内容に照らして委託者に契約締結能力がある場合には、任意後見契約を締結することは可能であり、任意後見受託者との間で任意後見契約を締結し、後見登記を完了し、直ちに任意後見監督人の選任を申し立てて、二に後見契約の発効を依頼することがあり得ます。

③ 財産管理契約と任意後見契約を締結しておく場合(移行型)

 老後に備えて判断能力が十分である時期に、一度に事理弁識能力が不十分な状況に至るわけではなく、徐々に能力が衰えていくことがありえます。そこで、任意後見人候補者が判断能力が不十分となる以前には、財産管理契約を締結し、判断能力低下後には、任意後見契約の効力を発動することにより移行していくことで、後見がなされる前後で保護が欠けるようにならないよう契約をしておくことがあります。

(2)任意後見契約の締結

 任意後見契約は、任意代理の委任契約であり、次の条件を充足していることが必要となります(任意後見契約に関する法律2条、3条)。

① 本人が、任意後見人に対して、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託に関する事務について代理権を付与する旨の契約を締結すること

② 家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から契約の効力が発生する旨の特約が付されていること

③ 公証人の作成する公正証書によりなされていること

が必要となってきます。

 任意後見契約においては、下記のような条項を設けることがあり得るでしょう。

第1条 (任意後見契約)
甲は、乙に対し、令和〇年〇月〇日、任意後見に関する法律(以下「法」という。)に基づき、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務(以下、「後見事務」という。)を委任し、乙はこれを受任する(以下「本件任意後見契約」という)。

第2条 (効力の発生)
1 本件任意後見契約の効力は、任意後見監督人が選任されたときに生じる。
2 本件任意後見契約締結後、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあり、後見を行うことが相当であると認めたときは、乙は、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の請求を行わなければならない。

第3条 (委任の範囲)
甲は、乙に対し、別紙代理権目録記載の後見事務を委任し、その事務処理のために代理権を付与する(以下、「本件後見事務」という)。

第4条 (費用負担)
1 乙が本件後見事務を処理するために要する費用は、甲の負担とする
2 乙は、前項の費用を乙が管理する甲の財産から支出することができる。

第5条 (報酬)
1 甲は、本件任意後見契約の効力発生後から、乙に対し、本件後見事務に対する報酬として、毎月末日限り金〇万円を支払うものとする。
2 乙は、前項の報酬を乙が管理する甲の財産から支払をうけることができる。

第6条 (本件後見事務の報告)
1 乙は、甲及び任意後見監督人に対して、〇か月ごとに、本件後見事務に関する事項を書面で報告する
2 乙は、甲又は任意後見監督人の請求があるときは、速やかに求められた事項の報告を行う。

第7条 (解除)
1 任意後見監督人が選任される前は、甲又は乙は、いつでも公証人の認定を受けた書面により本件任意後見契約を解除することができる。
2 任意後見監督人が選任された後は、甲又は乙は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て本件任意後見契約を解除することができる。

第8条 (契約の終了)
1 本件任意後見契約は、以下の場合に終了する
① 甲又は乙が死亡もしくは破産したとき
② 甲又は乙が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたとき
2 任意後見監督人が選任されたのちに前項各号の事由が生じた場合、甲又は乙は、速やかにその旨を任意後見監督人に通知する。

(3)公証人役場での公正証書の作成、登記手続き

〇 公正証書の作成

 任意後見契約の締結を行う場合には、法務省令で定める公正証書によることが要件とされています(任意後見契約に関する法律3条)。公正証書はすぐに作成できるわけではなく、公証人役場で予約を取得し、作成日時を決めることとなります。また、作成に当たって、身分証明書や印鑑登録証明書など必要な資料が存在します。
契約時には、代理権目録を利用します。法務省令にてチェック式方式と、自由記載方式の2種類がありどちらの方式を利用することもできます。

法務省令
1 公証人は、任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書を作成する場合には、公証人法35条及び36条の規定により記載すべき事項のほか、本人の出生の年月日及び本籍を記載しなければならない。

2 公証人は、任意後見契約に関する法律第3条の規定による証書を作成する場合には、附録第1号様式又は附録第2号様式による用紙に、任意後見人が代理権を行うべき事務の範囲を特定して記載しなければならない。

3 前項の用紙は、公証人法施行規則8条1の規定にかかわらず、日本産業規格A列四番の丈夫な紙とする。ただし、A列四番の紙に代えて、B列四番の紙とすることを妨げない。

〇 登記

 任意後見契約は登記されます。この登記は、公正証書を作成した公証人により嘱託によってなされます。

(4)任意後見監督人の選任の申立手続き

① 申立権者 : 本人、配偶者、4親等内の親族又は任意後見受任者
 任意後見契約が締結されて、登記がなされていた場合には、本人の精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあとときには、申立権者は、任意後見監督人の選任の申立てをすることができます。

② 管轄   : 本人の住所地の家庭裁判所(家事事件手続法217条)。

③ 申立書類 : 任意後見監督人選任の申立書
  申立人の戸籍謄本、本人の戸籍謄本、戸籍附票、本人の診断書、登記事項証明書、任意後見契約の公正証書の謄本、申立事情説明書などを提出します。

④ 申立費用

  収入印紙  800円
  郵便切手  家庭裁判所が定める金額
  収入印紙  1400円(登記用)

(5)審判手続

① 申立て、受理手続き

     ▽

② 申立人から事情聴取

 申立人からは、申立ての経緯、本人の状況の聞き取りがなされます。
 申立人の聞き取りや申立書、申立事情説明書などから任意後見と法定後見のどちらの利用が適切であるかの判断がなされます。
 特に、親族間紛争により任意後見制度が利用されていないかをチェックする役割があるとされています。

     ▽

③ 本人の陳述聴取・本人調査

 家庭裁判所は、任意後見監督人の選任を行うにあたっては、本人の陳述を聞かなければならない(家事事件手続法220条1項1号)。本人以外の申立てにより任意後見監督人を選任する場合には、本人の同意がなければなりません(任意後見契約に関する法律4条3項)。
 本人の陳述聴取および同意の確認は、調査官の面接調査により行われます。

     ▽

④ 任意後見受任者からの事情・意向聴取

 任意後見受任者からは、契約締結の経緯、後見事務に対する計画等を聴取し、適格性があるか判断されます。任意後見受任者事情説明書の提出を求めることができます。家庭裁判所は、任意後見契約の効力が生じることについて、任意後見受任者の意見を聞かなければならないこととなっています(家事事件手続法220条3項)。

     ▽

⑤ 任意後見監督人候補者からの事情・意向聴取

 任意後見監督人候補者説明書などにより、適格性などの判断、意向の聴取を行います。
 適格性の判断については、
・本人の心身の状況、生活および財産の状況
・候補者の職業および経歴
・候補者と本人との利害関係の有無
・候補者が法人であるときは、その業務の種類・内容並びに法人および代表者と本人との利害関係の有無
・本人の意見
・その他一切の事情

     ▽

⑥ 本人の判断能力

 任意後見監督人を選任するには、本人の精神の状況について医師その他適当な者の意見を聞かなければならないとされています(家事事件手続法219条)。通常鑑定は必要とはされておらず、診断書などにより本人の判断能力を判断することとなります。

     ▽

⑦ 審判

 任意後見監督人選任の審判は、任意後見監督人、本人、任意後見受任者、申立人および利害関係参加人に告知がなされます(家事事件手続法74条1項)。不服がある場合には、即時抗告をすることができます(家事事件手続法223条)。

3 任意後見監督人とは

(1)任意後見監督人とは

 任意後見制度を利用する場合には、必ず任意後見監督人が選任されます。これは、任意後見がその事務処理が適切に行われているかを監督するために家庭裁判所が選任するためのものです。

(2)任意後見監督人の職務

 任意後見監督人の職務内容は、次のようなものです(任意後見契約に関する法律7条1項)。

① 任意後見人の事務を監督すること。

 任意後見監督人は、任意後見人の事務の監督が主たる事務となります。

② 任意後見人の事務について、家庭裁判所に定期的に報告をすること。

 任意後見監督人は、任意後見人に事務の内容を家庭裁判所に定期的に報告をさせることで、監督を行っていきます。多くは定められた期日に年1回程度、監督事務報告書を家庭裁判所に提出することとなります。

③ 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。

 任意後見人が一時的に職務ができない場合など、急迫の事情がある場合には、任意後見監督人は、任意後見人の代理権の範囲で必要な行為をすることができます。

④ 任意後見人またはその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。

 本人と任意後見人との利益が相反する場合には、任意後見監督人が本人を代理することとなります。

(3)任意後見人の解任の申立て

 任意後見監督人は、任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所に対して、任意後見人の解任を請求することができます(任意後見契約に関する法律第8条)。

4 まとめ

 任意後見契約は、特定の信頼する者を任意後見人とできる点、代理権を付与する範囲を自ら選択できる点で大きなメリットがあります。一方で、同意権、取消権がないために、財産関係を取り消す場合には、保護として不十分な場合もあり得ます。任意後見について、契約の締結などを進められたい方は是非弁護士に相談をしておくとよいでしょう。

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