審判前の保全処分の申立て

審判前の保全処分の申立て

審判前の保全処分の申立て

1 審判前の保全処分とは何か。

 後見開始の審判までに、高額な契約をしてしまうおそれがある場合には、審判前の保全処分を行うことができます。例えば、判断能力が低下してきている家族が、頻繁に高額な買い物をしてしまうなど、後見制度の利用までに財産処分への対応を行う緊急の対応をしなければならないことがあるでしょう。

 後見等開始の審判の申立てがあったとき、申立てがなされたから当該審判の効力が生じるまでの間に、緊急に本人の財産の保存・管理を行い、散逸を防止し、監護について必要性がある場合には、審判前の保全処分の申立てが行える旨の各種が定められています。

① 後見開始の審判事件を本案とする保全処分(家事事件手続法126条)
② 成年後見人の解任の審判事件等を本案とする保全処分(家事事件手続法127条)
③ 保佐開始の審判事件を本案とする保全処分(家事事件手続法134条)
④ 保佐人の解任の審判事件等を本案とする保全処分(家事事件手続法135条)
⑤ 補助開始の審判事件を本案とする保全処分(家事事件手続法143条)
⑥ 補助人の解任の審判等を本案とする保全処分(家事事件手続法144条)

 保全処分の内容としては、

① 財産の管理者の選任
財産の管理人の選任をすることができます。財産管理者の権限は、原則として財産の保存、管理の範囲内で代理権を有するに過ぎないため、後見人のようは広範な権限はありません。
また、財産の管理者が選任されたとしても、本人の財産管理権限は失われません。

② 本人の財産管理、監護に関する事項の指示
事件の関係者に対し、成年被後見人等となるべき者の生活、療養看護、もしくは、財産の管理に関する事項を指示することができます。
この保全処分は、強制執行に親しまない勧告的な効力にとどまると解されています。

③ 後見命令、保佐命令、補助命令
成年被後見人等となるべき者の財産保全のため特に必要があるときには、当該申立てをした者の申立てにより、後見開始等の申立てについて審判が効力を生じるまでの間、成年被後見人等となるべき者の財産上の行為について、財産の管理者の後見、保佐、補助を受けることを命じることができます(後見命令、保佐命令、補助命令、家事事件手続法126条2項、134条2項、143条2項)。
財産管理者の選任があったとしても、本人は財産管理権を有するため、本人が判断能力が不十分なまま財産処分や契約締結を行う危険性が存在します。そこで、本人や財産管理者に取消権、同意権などの付与するための保全命令が定められています。
・後見命令の審判の対象となる財産上の行為は、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、除かれています。
 また、成年被後見人となるべき者、財産の管理者は成年被後見人となるべき者がした財産上の行為を取り消すことができます(家事事件手続法126条7項)。
・保佐命令の審判の対象となる財産上の行為は、民法13条1項の行為に限られ、範囲を拡張することはできません。民法9条但書に規定する行為は含まれません。
・補助命令の審判の対象となる財産上の行為は、補助人の同意を要する行為の定めの審判の申立てがなされたものに限られ、民法9条但書の日用品の購入その他日常生活に関する行為は除かれます。
 保佐命令、補助命令の審判があったときは、財産管理者の同意を得ないでした財産上の行為を取り消すことができます(家事事件手続法134条5項、143条5項)。

2 審判前の保全処分の要件とは

 法律上の手続きを行うためには、法律が規定した要件を満たすことが必要となります。

(1)本案である後見等開始の審判がされる蓋然性があること

 審判前の保全処分は、後見開始の審判の申立てがなされているときに、その審判がなされる蓋然性が存在することが必要となります。審判前の保全処分の申立ては、その趣旨、保全書運を求める事由を疎明しなければならないこと(家事事件手続法106条2項)が規定されてり、本人の財産管理・身上監護に相当の影響を及ぼすため、医師の診断書による疎明が必要となるでしょう。

(2)保全の必要性

 財産の管理者の選任等については、本人の財産の管理または本人の監護のために必要性があること(家事事件手手続法126条2項、134条2項、143条2項)が必要となります。
 保全の必要性を求める理由として、被害の状況や今後想定される損害を被るおそれを保全処分を求める事由にて示すとよいでしょう。

3 申立ての手続き

(1)申立権者

 後見開始、保佐開始、補助開始の申立人が申立てを行うことができます。

(2)管轄

 本案(後見開始等)の申立てを行った家庭裁判所が管轄となります(家事事件手続法105条)。

(3)提出書類

 提出書類としては、申立書、添付書類等を出すこととなるでしょう。
・申立書には、求める保全処分の内容を記載します。
・保全処分を求める事由を具体的に記載をします。

(4)添付書類

・後見・保佐・補助が開始される蓋然性を示す疎明資料
・保全命令が必要な事由を疎明する資料(家事事件手続法106条2項)。
 例えば、成年後見用診断書、財産の資料、陳述書などが必要となるでしょう。

(5)収入印紙・予納郵券

・保全命令の申立てのみの収入印紙は不要です。
・登記用に収入印紙       1400円
・郵便切手         所定の予納郵券

(6)審理手続き

 申立人から提出された申立書や添付書類を審理し、場合によっては審問や家庭裁判所調査官により調査がなされることとなります。

① 申立人からの事情聴取

 保全の必要性について、申立人が保全処分により実現したいと考えている内容を聴取する必要があるときに、どのような内容が保全処分が適切か、緊急性があるのかの聴取がなされることとなります。

② 本人の陳述聴取、調査

 本人が陳述不能な状況にある事案である場合を除いて、本人の陳述を聴取しなければなりません(家事事件手続法107条、126条3項)。家庭裁判所の調査官により調査がなされることがあるでしょう。

③ 親族の意見照会、本院調査以外の調査官により調査等

 事案に応じて、親族の意見照会などを行うことがありえます。

④ 判断能力の判断

 認容の蓋然性を疎明するものとして、診断書を提出することが必要となります。

⑤ 財産管理者候補者の適格性

 財産管理者候補者の申立てでは、親族間の対立が存在する場合があり得ます。候補者の適格性が不明な場合には、親族ではなく第三者の財産管理者が適切となる場合があり得るでしょう。

⑥ 財産管理者の選任に対して不服申立て手続きはできない

 財産管理人の選任等保全処分については、認容、却下がなされても即時抗告を行うことはできません。

⑦ 後見命令等に対する不服申立ては即時抗告を行う

 後見命令等の審判に対しては、即時抗告できる者が即時抗告することができます(家事事件手続法110条)。即時抗告の期間は、財産管理者に対する告知の日から2週間となります(家事事件手続法126条6項、86条)

⑧ 後見命令等の審判の効力が生じた場合には、裁判所書記官は遅滞なく、登記を嘱託することとなります(家事事件手続法116条、規則77条2項1号)。

4 まとめ

 後見開始、保佐開始、補助開始については、審理に一定程度の時間がかかるためにそれまでに本人の財産処分を回避するために保全を行うことが必要となることがあり得るでしょう。後見開始の申立てを行うにあたっては事情を踏まえて、保全の必要性があるかを弁護士に相談するとよいでしょう。成年後見申立て、審判前の保全処分を弁護士にご依頼されたい方はぜひお問い合わせください。

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