葬儀や香典をもらった場合にも相続放棄はできるのか。
人が亡くなった後に、お葬式を行うことは多いでしょう。では、相続放棄を考えている場合でも葬儀を行うことはできるのでしょうか。葬儀費用を相続財産から出してしまうことで問題となってしまうケースがあるため、注意して進めることが必要となる場合があります。このページでは、葬儀を行った場合、香典をもらった場合に相続放棄をすることができるのかについて解説させていただきます。
1 相続放棄とは何か。
相続放棄とは、相続人が相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示のことをいいます(民法938条)。
相続の放棄をしようとする者は、【自己のために相続が開始したことを知ったとき】から【3か月以内】に、相続放棄の申述を家庭裁判所にしなければならないとこととなっています。
相続放棄は生前などの事前に行うことはできず、家庭裁判所での手続きを行う必要がありますので、相続しないと意思表示するだけでは足りないことに注意が必要です。
相続放棄がなされると、はじめから相続人にならなかったものとして取り扱われ(民法939条)、代襲相続などは行われないことになります。なお、相続放棄者については、放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を開始できるまでは、自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理を続けなければなりません(民法940条第1項)。
相続放棄の手続きの概要
【申述人】 相続人
【申立先】 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
【必要な費用】 収入印紙 800円
予納郵券 各家庭裁判所にてご確認ください。
【申述書】 相続放棄申述書に必要事項を記載します。
【添付資料】 被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍など
住民票の除票、戸籍附票
相続人と被相続人との関係を示す戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
2 相続放棄ができない場合とは
では、相続放棄ができない場合とはどのような場合をいうのでしょうか。
主としては、単純承認とみなされた場合が考えられるでしょう。また、相続放棄手続きの申述を行ったものの、不受理決定がなされてしまった場合などがあり得るでしょう。
① 単純承認とみなされる財産処分を行った場合
② 熟慮期間の間に限定承認や相続の放棄をしなかった場合
③ 相続放棄手続に不備があり、追完がなされなかった場合
などが考えられます。
(1)単純承認とは
単純承認とは、相続人が、被相続人の権利・義務を全面的に承認することを内容として相続を承認することをいいます(民法920条)。一切の権利義務を包括的に承継するため、被相続人に借金などがあった場合には、想像人は自己の財産から弁済しなければならないこととなります。
単純承認には、届出などの規定は法定されていませんが、以下のような法定単純承認があった場合には、単純承認が行われたとみなされます。
① 相続財産の全部または一部の処分を行った場合
② 熟慮期間の経過(相続開始後3か月以内に限定承認や相続放棄を行わない場合)
③ 限定承認や相続放棄を行ったものの、背信的行為があった場合(相続人が限定承認や放棄をした後に、相続財産の全部または一部を隠匿し、これを費消、悪意で財産目録に掲載しない)など
(2)相続財産の全部または一部の処分について
民法921条では、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
但書において、保存行為(財産の現状を維持する行為)や民法602条の期間を超えない短期の賃貸をする場合はあたらない旨が規定されています。
ここでの処分では、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産の処分をしたか、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことが必要と解されています(最高裁昭和42年4月27日判決)。
処分については、売却、譲渡、名義変更、代物弁済、債権の取立、預貯金の解約し、自己の財産と一体として扱う、抵当権の設定、遺産分割協議、債務の弁済などが当たるとされています。
(3)葬儀費用は相続財産の処分となるのか、
では、葬儀費用の支出は、相続財産の全部又は一部の処分といえるのでしょうか。
処分とは、法律的、事実的に、相続財産の現状を変更する行為であると考えられています。そして、葬儀費用については、被相続人の社会的地位に応じて葬儀費用を支出することは通常想定されるものであるため、相続財産の現状を変更するまでとはいえないとして、一定の範囲内では法定単純承認とはならないと解されています(東京地方裁判所昭和59年7月12日判決)。
もっとも、どの範囲が葬儀費用として相当といえるかは不明瞭なところがあります。相続放棄の可能性がある場合に、被相続人の預貯金をまとめて引き出すなどを行為を行うと単純承認としてみなされるリスクがありますので、相続放棄を検討されている場合には、葬儀費用を支出することについては慎重に行うことが必要でしょう。
(4)香典は相続財産の処分となるのか。
葬儀において香典を受け取る場合はありますが、これらは単純承認となるのでしょうか。
この点、香典はそもそも葬儀に関する支出として喪主に対して交付される金員であるため、相続財産には該当しないと考えられます。
したがって、香典を受領する行為は、相続財産を処分することには該当しないこととなるでしょう。
(5)熟慮期間を経過すると相続放棄はできないのか。
死亡をしてから相続するものがないと考えていたところ、突如債権者から連絡があるといったケースがありえます。このような自体の場合には、3か月の熟慮期間が経過していて相続放棄をすることはできないのでしょうか。
熟慮期間の起算点については、自己のために相続の開始があったことを知ったときとの期待がありますが、最高裁は、起算点について、相続財産が全くないと信じ、かつ、信じるにつき相当の理由がある場合には、相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき、又はこれを認識し得うべき時に、3か月の起算が開始すると解されています(最高裁昭和59年4月27日判決)。
事案にはよりますが、相続放棄が全くできないわけではなく、弁護士と相談して、相続放棄の手続きを行うべき、債務整理など別の手続きを行うべきかを相談しておくとよいでしょう。
3 まとめ
葬儀を行った場合や香典をもらった場合にも相続放棄をすることができる場合がありますが、熟慮期間が3か月と短期間であるため、できるだけ早期に弁護士と相談されることをオススメ致します。天王寺総合法律事務所では、相続事件、遺言事件などに取り組む弁護士が所属しておりますので、大阪天王寺で相続でお困りの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。