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酒に酔っていた場合の責任能力の有無はどのように判断がなされるのでしょうか。

酒に酔っていた場合の責任能力の有無はどのように判断がなされるのでしょうか。

1 責任能力とは何か。

犯罪とは、国によって刑罰が科されるべき行為のことなどをいいますが、法的には構成要件に該当する、違法で、有責な行為と言われることがあります。

(1)構成要件

構成要件とは、行われた行為が法律により犯罪として定められた行為に該当するかどうかの判断であり、他人の財物を窃取した行為(刑法235条・窃盗罪)に該当するかどうかをまず検討することとなります。

(2)違法

構成要件に該当する行為のうち、違法性が高い類型のものを定めたものであるため、構成要件に該当する場合には、特段の事情がない限りは、違法性が推定されることとなります。

特段の事情として、違法性阻却事由が存在し、正当防衛(刑法36条)、緊急避難(刑法37条)、正当行為(刑法35条)などの事情があれば、違法性が失われ、犯罪として処罰されないことがあります。

(3)責任

刑法は、行為者が加害行為を行ったことそれ自体ではなく、規範に直面しながらあえて行為を行ったという非難可能性が存在すること、責任が存在することが必要とされています。刑事罰は、その行為をすることについて他の行為の選択が可能であったのに、あえてその行為に及んだことに非難が存在することが前提とされています。

そのため、行為者が精神の障害などにより有責に行為する能力が備わっていない場合には、行為者は法的に非難をすることができず、責任が阻却されます。

刑法39条1項では、(心神喪失及び心神耗弱)心神喪失者の行為は、罰しないと規定がなされており、心神喪失の場合には、責任無能力のため、刑事罰に罰せられないこととなります。

なお、責任能力がないとの判断がなされた場合には、責任能力を有していることを前提とする刑事罰での対応ではなく、一定の重大な犯罪などの場合には、心神喪失等の状態で他害行為を行った者に関する法律(医療観察法)によって、入院などの治療といった対応が行われることがあります。

刑法39条2項によれば、心神耗弱者の行為は、その刑を減軽すると規定し、完全な責任能力は有しないものの、責任能力の範囲が著しく限定されているため、席に減少を認め、刑事罰の必要的減軽が規定されています。

2 酒に酔っていた場合に心神喪失・心神耗弱が認められるか。

飲酒酩酊の場合には、心神喪失・心神耗弱が認められるかが問題となります。

(1)心神喪失・心神耗弱とは

心神喪失とは、精神の障害により、行為の違法性を弁識する能力(弁識能力)、その弁識に従って行動を制御する能力(制御能力)を欠く状態をいいます。

心神耗弱とは、精神の障害により、弁識能力又は制御能力が著しく限定されている状態をいいます。

心神喪失・心神耗弱の判断は、病歴、犯行当時の病状、犯行前の生活態度、犯行の動機・態様、犯行後の行動、犯行以後の病状などを総合的に考慮することによって判断がなされることとなるとされています(最高裁昭和53年3月24日判決)。

精神科医の鑑定書などを参照として判断がなされますが、最終的には裁判官の法律判断であるとされています。最高裁判所は、精神鑑定書(鑑定人に対する証人尋問調書を含む。)の結論の部分に被告人が犯行当時心神喪失の情況にあつた旨の記載があるのにその部分を採用せず、鑑定書全体の記載内容とその余の精神鑑定の結果、並びに記録により認められる被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して、被告人が本件犯行当時精神分裂病の影響により心神耗弱の状態にあつたと認定したのは、正当として、鑑定書の記載以外の判断を行う場合があることが示されています(最高裁昭和59年7月3日決定)

(2)飲酒酩酊の度合いについて

酩酊には、精神医学的には急性アルコール中毒として扱われることになりますが、酩酊を分類をしていくと、正常酩酊と異常酩酊とに大きく分けられると考えられています。異常酩酊には、正常酩酊と量的に異なる複雑酩酊と、正常酩酊と質的に異なる病的酩酊に分かれるとされています。

〇 正常酩酊:知覚、運動、精神の症状がアルコール血中濃度とほぼ平行してみられ、顔面紅潮、頻脈、失調歩行、言語障害が生じることがあるとされています。酔いが進行すると感情が不安定となったり、人柄が変わったりすることがありますが、異質な行動や症状は出てくることはなく、犯罪が行われても酩酊は誘発の役割しか果たしていないため、完全責任能力が認めらえる傾向があるとされています。

異常酩酊の発生の有無は、飲酒量とは関係がなく、量・反応関係が成立しないものが異常酩酊と判断がなされます。

異常酩酊には、複雑酩酊と病的酩酊とが存在します。

〇複雑酩酊:飲酒によって気分の刺激性が高じて、著しい興奮が出現するとされています。持続時間は長く、一時的に収まっても興奮が再燃し、波状的な経過を辿ることがあるとされています。酩酊時の記憶は断片的ですが、完全な記憶は保持されているとして限定責任能力が認められる傾向があるとされます。

〇病的酩酊:飲酒の量にかかわらず、暴発行為の動機がない、了解不能なこと、体感連続性の断絶、見当識の喪失、極端な性格変化など、幻覚や妄想などの状況の根本的な誤認が生じて、重大な犯罪となってしまうおそれがあります。病的酩酊となった場合には、責任無責任となることがありえます。

異常酩酊が発生する場合とは、遺伝的な要因、アルコール依存症、脳器質性障害・極端な疲労や衰弱状態などがあり、異常酩酊は繰り返される可能性が存在することとなります。

異常酩酊の場合には、責任能力が否定される、限定責任能力と考えられていますが、正常酩酊(尋常酩酊)の場合には、責任能力はあると解されています。異常酩酊と普通酩酊との間にも様々な状態があり、その程度などによって限定責任能力があるとされています。

したがって、飲酒の影響によって複雑酩酊ないし病的酩酊が発生している疑いがある場合には、鑑定書などにおいて、事件当時の弁識能力、制御能力があるかによって判断を行い、責任能力ないし限定責任能力を争っていくということがあり得るでしょう。

一方で正常酩酊の場合には、原則としては、現時点では記憶がないとしても、事件当時には、飲酒は行動の誘因でしかなく、弁識能力、制御能力がなかったと判断されることはまれであるということになるでしょう。

正常酩酊などによって酔っ払い当時の記憶がないといたものであった場合には、実際には、事件当時には弁識能力、制御能力があったと判断され、責任能力で争うことは困難となることが多いでしょう。

また、複雑酩酊、病的酩酊であったとしても直ちに心神耗弱、心神喪失に該当するわけではなく、飲酒によりいかなる状態が生じるのかを踏まえて、事件当時の弁識能力、制御能力があったのかどうかを判断していくこととなります。事案などを踏まえて鑑定などを行っていくのかを検討していくになるでしょう。

3 まとめ

病的酩酊や複雑酩酊といった正常酩酊と質的、量的に異なる症状がある場合には、鑑定などを利用するかどうかを検討し、対応を行っていくことが考えられるでしょう。
一方で、正常酩酊の場合には、心神喪失、心身耗弱によって責任能力が否定されることはほとんどなく、飲酒をしていたからとしって直ちに刑事責任が否定されるといったことは考え難いこととなります。そのため、被害弁償などの対応をしっかりと行っていくことがより大切なこととなってくるでしょう。刑事事件を起こしてしまった場合には、再犯防止と贖罪を行っていくことが大切なことになってきますので、弁護人へのご相談などをされることをオススメ致します。

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