第三者機関の立ち合いで面会交流が認められる場合とは?
面会交流を行うにあたって、夫婦間に信頼関係がない場合にはどのようにして行ったらよいのでしょうか。
このような場合に第三者の立ち合いや第三者機関を立ち会わせることで、面会交流の方法とするといった判断を家庭裁判所が行う場合があります。
東京高裁平成19年11月7日決定では、
面会交流について、過去に妻に子らの監護に不適切な発言があったものの、
① 妻が子供らにあってから2年以上が経過していること
② その後1回の試行的面会交流が行われたに過ぎないこと
③ 夫婦間に十分な信頼関係が築くことができていないこと、妻に精神的に安定していない面があることから、面会交流の方法を、夫及び夫の指定する第三者の立ち合いを認めたうえで、3か月に1回と認めた事例があります。
1 面会交流とは何か
面会交流とは、父又は母が子ども面会をしたり、それ以外の方法によって親子で交流を行う権利のことをいいます。
離婚をしたとしても、子どもにとっては親権者でない親であっても自らのルーツであることは変わりなく、子どもの福祉、権利の観点から交流を行っていくことが望ましい形であると考えられています。
民法766条第1項では、離婚をするときは、…父又は母と子との面会及びその他の交流…その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
として、子の利益を最も優先して考慮しなければならないとされています。
2 面会交流が許される条件とは
子の利益として最も優先した考慮を判断されることとなります。
① 子 :年齢、心理状態、現在の生活状況、面会交流に対する意向
② 非監護親:別居前の監護態度、子どもに対する愛情、親和性、面会交流の方法
③ 監護親 :生活状況、子の監護状況、面会交流に対する意向
④ 面会交流を実施する際の監護親と非監護親との協力の可能性
子どもの年齢がある程度上がってきている場合には、子ども陳述が家庭裁判所調査官により調査され、その意思が考慮されるといったこととなるでしょう。
家庭裁判所は、面会交流は子どもの健全な成長には有益であると考えられているため、子の福祉を害する等面会交流を制限すべき特段の事情がない限りは、原則として認められるべきとの考え方を持っているとされています。
(東京高裁平成25年7月3日決定)。
子の福祉を害することが客観的に明らか事情としては、
① 子どもが暴力等の虐待を受ける危険性が高い場合
② 子どもが連れ去られる危険性が高い場合
③ 子どもの精神的負担から健康状態を著しく損なう場合
④ 別居親が同居親を不当にひなさせるなど、精神的安定を害される可能性がある場合
とされています。これらの事情があったとしても、一律に禁止されるわけではなく、間接交流などによって交流を行っていくことがあり得るとのことです。
3 面会交流の流れ
(1)面会交流の申立てについて
面会交流について、協議を行い、協議が整わない場合には調停を申し立てることとなります。
離婚調停の場合には、離婚調停に附随する申立てとして、行う場合もあります。
(2)家庭裁判所へ申立てについて
別居、離婚後などには面会交流の調停・審判を求めて家庭裁判所に申立てを行うことが考えられます。調停の申立てを行うと、家庭裁判所において、調停期日が定められ(1~2か月程度先のことが多いです)、相手方にも申立書の写しが送付されます。
【申立人】 父 又は 母
【申立先】 相手方の住所地の家庭裁判所 又は
当事者が合意で定める家庭裁判所
【申立てに必要な費用】
・収入印紙 1200円
・家庭裁判所が定める郵便切手
【申立ての必要書類】
・面会交流申立書、申立書の写し
・未成年者の戸籍謄本
(3)調停の進め方について
面会交流の調停については、多くは1か月から2か月の間に1回程度行われ、それぞれが入れ替わりないし別室にて家庭裁判所の調停委員が聞き取りを行いながら、進められることとなります。
面会交流の可否や内容について、当事者間で争いがある場合には、家庭裁判所調査官によって調査がなされることがあります。
家庭裁判所調査官とは、人間諸科学の知見から事実の調査などを行う裁判所職員であり、子どもとの面会、意向の確認、試行的面会交流などにおいて、調査や報告を行うこととなります。
調査官の調査結果については、調査報告書が作成され、調査の結果と調査官の意見が出されることとなります。
調停での話し合いがまとまらない場合には、審判に移行し、家庭裁判所が面会交流の方法を定めることとなります。
もっとも、審判での判断では任意での履行が困難となる場合がありえるため、可能な限り、実現可能な面会交流の条件を当事者で合意をすることが望ましいとは考えられます。
4 第三者機関が立ち会うことにより面会交流を認める事例
(1)事案の概要について
① 妻と夫は、平成13年に婚姻し、平成14年、平成15年に子どもらを出産し、平成16年頃から別居をしていました。妻は、夫が監護している未成年者らとの面会交流を行い時期、方法などを求める調停、審判を求めました。
② 妻と夫は、平成16年にアパートを借りていましたが、妻が未成年者らを虐待しているとの通報をきっかけに児童相談所が介入し、妻は精神疾患により病院に1か月の入院をしました。夫は、未成年者らをつれて実家に戻り、それ以後、夫が実家にて未成年者らを監護している状態でした。
③ 妻は、平成17年に、夫宅を訪れ、未成年者らと対面しましたが、未成年者らは不安な態度を示し、短時間で退去。以後、妻は、夫宅を訪れることを自粛しています。
未成年者らは、出生から平成16年までは、妻によって監護されていましたが、監護の内容としては、夫との不和や精神的な不安定さから、十分に家事が行われず、育児にも行き届かない面はありましたが、身体的な暴力が振るわれたことはなく、未成年者らは同居当時の具体的な記憶は有してはいませんでした。
⑤ 未成年者らは保育園に通園し、心身の発達には問題がなく、安定した生活状況となっています。
⑥ 平成17年に妻は生活保護を受給し、数度にわたり病院への入退院をしていました。平成19年に、妻は飲酒をしたうえで病院を訪れ、警察に保護され、アパートの立ち退きを要求されたあとには、住居確保の必要性があって、平成19年から病院に任意で入院し、薬物療法、精神・作業療法等を受けています。しかし、許可を得て外出することはでき、子どもとの交流によって母親としての意識が芽生えること、会えない場合には抑うつの訴えが増すとの意見が述べられています。
⑦ 平成19年9月に、家庭裁判所で行われた立会人の下での試行的面会交流が行われました。
・妻には試行前には、緊張感も高まり、自分の感情を統制できるか不安を抱いている状態でしたが、実際の面接交渉の場面では大声を出したり、涙を流したりなどの感情的な言動は見られず、行動は抑制的に行うことができていました。
・妻は、子どもらの一人一人に関心を向け、身体の接触時にも子供らのペースを乱すことなく対応していました。
・事前に説明した留意事項や面接時間等を遵守され、同席した家裁調査官や代理人の指示に素直に従っている状態でした。
・子どもについては、母親であるとの認識があり、緊張した様子でしたが、問いかけにはうなずくなどして反応していたこと、妻が遊びを手伝ったり抱きかかえたりするときにもいやがる態度は見せなかったこと、他の子どもらについてもやや緊張している様子は見られたものの,妻側を過度に警戒することなく,自分たちのペースで遊びを継続していたことがみられました。
以上のような一度は虐待などが疑われ、精神的に不安定となったいた状態であった方について、試行的面会交流などを通じて、遵守事項などを守り、子どもらとの接触ができている中で、原審判の判断を取消し、
・3か月に1回の割合で、1回につき1時間、面接交渉をすることを許さなければならない。
・相手方及び相手方の指定する第三者は、面接交渉をする間、面会交流に立ち会うことができる。
・面接交渉の具体的な時期、実施する場所等については、未成年者らの福祉に十分に配慮して当事者間で協議して定めるものとするとの判断がだされました。
(2)判断の枠組み
① 妻と未成年者らが同居をしていた時期には、未成年者らの監護について不適切な面があったこと、平成17年に短時間の面接をしたときに未成年者らが不安な態度を示したことは認められるが、既にそのころから相当期間経過しており、未成年者らは夫の下で安定した生活をしていることからすると、それらの事情が現在まで乗除面に悪影響を及ぼしているとは考えられないこと
② 妻は、精神疾患で入院中であるが、試行的面会交流では抑制的にふるまい、未成年者らはペースを乱すことなく対応ができ、遵守事項や時間を守ることができていたこと
③ 夫は、原審の間には面会交流に子どもらがおびえると情緒の安定を害する懸念があるとして拒否的であったが、高等裁判所においては、期日や家庭裁判所調査官による調査、試行的面会交流の中で、妻の抑制的な態度を踏まえて、慣れるまで回数を少なくするなどの条件の下で面会交流を認める意向を示すようになっていたこと、面会交流後には子どもらの心身について配慮をするつもりであることから、面会交流をすることにより具体的な悪影響は考え難く、面会交流は、子どもらの健全な発達のために有意義であると考えられる上、面接交渉後の未成年者らヘの配慮を相手方に期待することもできるから、面会交流を認めることが相当とされました。
④ 妻が子どもらに最後に会ってから2年以上経過し、その後に1回面会交流の試行が行われたにすぎないこと、信頼関係は形成されていないこと、精神的に安定していない面があることをかんがみると、当面の面会交流は、成長ぶりを直接見聞きするとともに、しばらく途絶していた母親の接触、交流を回復することが実施が相当である。
⑤ 面会交流の試行は、立会人の協力のもとに実現したこと、子どもら3名はいずれも就学前であり、その情緒面や健康面に配慮する必要があること、未成年者ら3名の相手を同時にすることは容易ではなく、補助者が必要であることを併せて考慮すれば、面接交渉の頻度及び時間は3か月に1回1時間程度が相当であり、面接交渉の際には相手方の立会いを認める必要がある。精神的に不安定なところがあることからすると、面接交渉の際に抗告人を適切に支えることのできる第三者の立会いを条件とするのが相当である。
⑥ 当面の第三者としては、本件調停、審判を追行し、面接交渉の試行にも立ち会った代理人が相当であるが、将来的には双方で協議の上,抗告人のことを理解できる第三者を相手方が指定することが望ましい。
面接交渉は未成年者らの福祉のための制度であり、面接交渉に当たっては未成年者らの情緒面や健康面に十分配慮する必要があることや、相手方が抗告人との別居後、仕事をしながら未成年者らの監護を行ってきたものであることを理解し、相手方と未成年者らの安定した養育環境を揺るがすことのないよう、十分に配慮した対応をすることが求められる。
他方,相手方には,抗告人と未成年者らの面接交渉は,未成年者らの健全な心身の成長にとって有益であることを理解した上、面接交渉に協力することが期待されると判断されました。
5 第三者機関の利用・弁護士への相談を
面会交流の調停・実施を行うにあたり、公益財団法人やNPOなどを利用することができる場合もあります。有名な機関としては、FPIC(エフピック)などの第三者機関を利用することが考えられます。FPIC事務所に事前相談を行い、利用の申入れなどを行っていくこととなるでしょう。施設内での実施などができる場合もありますので、調整をされていくとよいでしょう。
面会交流については、子どもの福祉の観点などを踏まえて、弁護士とも相談、援助を受けながら進めていくことがよりよい解決となる場合があります。家事事件、離婚事件、面会交流事件などを取り扱っている弁護士事務所にご相談をされることをオススメ致します。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。