面会交流の拒否で多額の慰謝料を負ってしまうケースとは?
(静岡地方裁判所浜松支部判例平成11年12月21日)面会交流拒否によって500万円の損害賠償金の支払いが認容された事例があります。
1 面会交流は月1回程度認められることが多い
面会交流とは、父又は母と離れて暮らす子どもと直接の面会をしたり、手紙や電話などのその他の交流をすることをいいます。
当事者において子どもの面会交流について協議が整わないときには、家庭裁判所において、調停、審判を経て、面会交流を定めることができます。
家庭裁判所が面会交流を認めるかどうかの基準については、面会交流を認めることが子どもの利益や福祉に適合するかどうかといった視点から検討がなされます。
子どもの利益や福祉に適合するかについては、
①子どもの年齢や心理的状況から面会交流をすることが健全な成長で利益となるのか、それとも暴力や虐待等の事情から精神的安定を阻害される危険性があるのかといった視点、
②子どもが面会交流をしたいとの意向を持っているのか、監護親から子どもの意向が歪まされていないかどうかといった視点、
③面会交流を求める親御さんの事情、別居前との子どもとのかかわり方は子どもの福祉にかなうのものか、虐待や暴力などをしていないか、子どもに対する愛情はあるのか、子どもとの親和性、子どもと面会交流をする際に直接の交流、間接の交流、そのほかの交流方法をいつ、どのような時期に行っていくのか
④離婚後の相互の親の関係性、協力が得られることが予想されるのかどうか
などの様々な事情が考慮されます。
家庭裁判所では、家庭裁判所調査官により事実の調査を依頼し、家庭訪問や子の意見の聴取、両親からの聞き取り、調停・審判により提出されたすべての事情を考慮して、決定がなされていきます。
もっとも、実務的には、子どもの福祉を害する明らかであるとの客観的事情がない限りは、月1回といった程度の面会交流を認めるケースが多いといえるでしょう。
2 面会交流を拒否した場合のリスクとは
(1)間接強制がなされるリスク
最決25年3月28日によれば、①面会交流の日時又は頻度、②各回の面会交流の長さ、③子の引渡方法の3要件を給付特定要件として挙げており、これらによって監護親がすべき給付の内容が特定されている場合には、間接強制決定をすることができると判断がなされています。
そのため、調停条項や審判条項において、上記が特定されている場合には、間接強制という方法によって、不履行の場合には一定額の支払いを命じられることがあります。
間接強制については、1回の拒否につき、3~5万円程度の支払いが命じられるリスクがあるとされています。
(2)損害賠償請求権が認められるリスク
面会交流が家庭裁判所によって認められているにもかかわらず、これを拒否した場合には、不法行為に該当し、慰謝料請求が認容されることがあり得ます。
もっとも、面会交流を拒否したことにより認められる損害賠償請求権の金額は、面会交流を拒絶するに至った事情や合わせなかった期間などを考慮して決定されることとなりますが、おおむね数十万円から100万円程度といわれています。
熊本地平成27年3月27日では、月2回程度面会交流を内容とする調停が成立したものの、5回程度の面会交流が実施されたが、その後は面会交流を拒否した事案について、調停の成立によって調停に従った面会交流を実施する日時等の詳細につき誠実に協議すべき条理上の注意義務を負うとして、妻等に対して、誠実協力義務違反の共同不法行為を肯定し、慰謝料として、夫の面会交流権を侵害したとして、慰謝料として20万円を認めた事案が存在します。
3 高額な面会交流拒否の慰謝料が認められた事案について
(静岡地方裁判所浜松支部判例平成11年12月21日)面会交流拒否によって500万円の損害賠償金の支払いが認容された事案が存在します。
・平成7年7月に、夫婦での別居が開始される。
・平成7年8月に、離婚調停、面会交流の調停
・平成10年6月に、離婚の調停が成立し、面会交流として、2月に1回の2回目の面会交流を認める内容の合意が成立する
・平成10年7月に、面会の具体的な場所を求め、日程の調整を図ったが、相手方は面会交流を拒否をした事案
について、
① 被告が原告の許を離れて別居するに至ったのは、本件調停の経過や調停離婚成立の過程を合わせ考慮すれば、決して原告が自分本位でわがままであるからというのではなく、むしろ、被告の親離れしない幼稚な人格が、家庭というものの本質を弁えず、子の監護養育にも深く考えることなく、自己のわがままでしたことであって、そのわがまま態度を原告に責任転嫁しているものいう他なく、被告の別居に至る経過が今回の面会交流拒否の遠因となっているとの主張は到底採用できない。
② 学資保険の未払保険金30万の支払は、必ず被告の預金口座に振り込むことが条件であったと、被告は主張するものの、証拠によって認めるに足りず、そもそも被告が満期退職金を受領する際に贈与税または一時所得による所得税が課税されるとしても、せいぜい10%内外の経済的負担を被告が一時的にすぎず、到底父性原理の習得という人格的評価と比較すれば、被告の主張はとるに足りない言いがかりというほかない。
③ 以上のとおりからすれば、被告が原告に対して子の面会交流を拒否したことは、親権が停止されているとはいえ、原告の親としての愛情に基づく自然の権利を、子どもの福祉に反する特段の事情もないのに、ことさらに妨害したということができるのであって、前項で検討した諸事情を考慮すれば、その妨害に至る経緯、期間、被告の態度などから、原告の精神的苦痛を慰謝料するのは金500万円が想定であると判断されました。
事例判決であるため、他の事案でも同様に高額の判断がなされるとは限りません。
むしろよほどの事案でない限りは、500万円もの高額な慰謝料請求が認められない可能性が高いでしょう。
もっとも、家庭裁判所において、面会交流が定められているのに、正当な理由がないにもかかわらず、これを拒否することには一定のリスクがあるといえるでしょう。
4 高額な慰謝料請求などを避けるにはどうすればよいのか
面会交流については、子どもの福祉、子どもの利益から子どもになぜ今この方法で合わせることができないのかを協議、主張しておくことが大切となります。
子どもの意向や面会交流の具体的な方法についてを協議し、面会交流ができない事情をしっかりと話していくことが必要となってくるでしょう。
子どもが面会交流を拒否しているとの事情があるのであれば、面会交流の協議、調停などで再度、調整を図っていくこともあり得ます。
天王寺総合法律事務所では、離婚や面会交流、子どもの権利について取り組む弁護士が所属しておりますので、面会交流などでお困りの場合には一度ご相談ください。
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大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。