令和3年8月26日よりGPSでの位置取得等は改正ストーカー規制法の対象!
令和3年5月に、ストーカー規制法が改正され、①相手方の承諾を得ないでGPSでの位置情報記録の取得が規制対象として加えられています。ストーカー被害を受けられている場合には、警察や被害者支援を行っている団体、弁護士に相談されるとよいでしょう。
1 令和3年改正のストーカー規制法の経緯
元交際相手委等の自動車にGPS機器をひそかに取り付け、その位置情報を取得する事案があったこと、最高裁において従来のストーカー規制法での見張り行為についてGPS機器での位置取得行為が該当しないことが示されたことで、法の隙間を埋めるために、ストーカー規制法の一部が改正されることとなりました。
最高裁令和2年7月30日判決(ストーカー行為等規制等に関する法律違反被告事件)によれば、従来のストーカー規制法2条1項1号の「住所、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為について、機器等を用いる場合であっても、上記特定の者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要するものと解するのが相当であると解釈しましした。
そのうえで、被告人が元交際相手が利用していた美容院の駐車場等においてGPS機器を上記自動車に取り付けたが、同車の位置の探索は、駐車場等の付近から離れた場所において行われたものであること、GPS機器の監視が駐車場等を離れて移動する自動車の位置情報は駐車場等の付近における被害者の動静に関する情報ということができず、被告人の行為はストーカー規制法における「住所等の付近において見張り」をする行為に該当しないと判断した高裁の判断は正当であったと旨を示しました。
そのため、ストーカー規制法上では、GPS機器に関する規定がない状態となっていました。
そこで、国会では、ストーカー行為等の実情にかんがみ、相手方の承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置により記録され、又は送信される当該装置の位置に係る位置情報を取得する行為等を規制の対象に加え、禁止命令等に係る書類の送達について改正するストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律案が提出されることとなりました(令和3年2月26日提出、令和3年5月26日公布年月日)。
新たに規制行為の対象となった行為として下記のような行為が規制されています。
① 令和3年6月15日より規制される行為
・実際にいる場所における見張り等、
・拒まれているにもかかわらず連続して、文章を送る行為
② 令和3年8月26日より規制される行為
GPS機器等を用いた位置情報の無償承諾取得等の行為
また、禁止命令等に係る書類の送達に関する規定として、その送達を受けるべき者の住所及び居所が明らかでない場合には、都道府県公安委員会は、その送達に代えて公示送達をすることができることが定められました。
公示送達とは、ある意思表示を相手方に到達をさせたいのですが、相手方の住所がわからないために、意思表示を到達させることができない場合、その意思表示が到達したとみなすことができる制度をいいます。
2 ストーカー規制法で新たに規制されることとなった行為とは
(1)令和3年8月26日より規制される行為(位置情報無承諾取得等)
「位置情報無承諾取得等」が新たに追加されることになります。
「位置情報無承諾取得等」とは
①承諾なく、所持する位置情報記録・送信装置(GPS機器等)の位置情報を取得する行為
②承諾なく、所持するものに位置情報記録・送信装置(GPS機器等)を取り付ける行為
をいいます。
したがって、①承諾なく、所持するGPS機器等の位置情報を取得する行為や②承諾なく所持する自動車などにGPS機器等を取り付ける行為は、つきまとい等の行為となり、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく不安を覚えさせる場合には、禁止命令等の対象となるでしょう。
「位置情報無承諾取得等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。 ① その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(当該装置の位置に係 る位置情報(地理空間情報活用推進基本法(平成十九年法律第六十三号)第2条第一1項第1号に規定する位置情報をいう。以下この号において同じ。)を記録し、又は送信する機能を有する装置で政令で定めるものをいう。以下この号及び次号において同じ。)(同号に規定する行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること。 ② その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること。
(2)令和3年6月15日より規制される行為(現に所在する場所の付近における見張り等する行為、拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為)
つきまとい等の規制対象について、従来は住所、勤務先、学校等の通常いる場所におけるつきまとい行為などが規制されていましたが、含まれていなかった実際にいる場所における見張り等が追加されました。
また、従来は、電話、FAX、電子メール等が対象とされていましたが、新たに文書、郵便などが追加されることとなりました。
① 実際にいる場所における見張り等
相手方が現に所在する場所の付近において見張りをし、当該場所に押し掛け、及び当該場所の付近をみだりにうろつく行為が追加で規制がなされています。
これまでの住居、勤務先、学校以外の店舗やホテル、公園などにおける見張り等の行為についてもストーカー規制法の対象となりました。
② 拒まれているにもかかわらず連続して文書を送付する行為
拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為が追加が規制されています。
電話、FAX、電子メールのみならず、手紙を送る場合や郵便受けに文書を投函している場合にもストーカー規制法の対象となりました。
3 ストーカー被害を受けている場合の対応方法とは
(1)ストーカー被害を受けていると思った場合には警察への相談や被害者支援を行っている団体、弁護士への相談を行う。
ストーカー被害の案件の特徴として、行為が反復継続性を有していること、徐々にエスカレートしていく傾向があること、加害者に自己正当化の傾向があること、被害者の生活環境を破壊するおそれがあることが指摘されています。
そのため、最初は比較的軽微な被害であっても、徐々にエスカレートなどをしていくことや加害者に悪いことをしているとの意識が低いため、反復継続するなどして生活へ与えるダメージが大きなものとなるといわれています。
そこで、警察などへのストーカー被害相談を行っていくことが大切となるでしょう。
各都道府県警察において相談を対応が期待でき、法テラスや被害者支援を行っている弁護士などの援助を受けることができる場合があります。お近くの機関において相談をして、対応を協議していくとよいでしょう。
(2)対象となるつきまとい等の行為に当たるのかを確認、証拠を押さえておくとよいでしょう。
ストーカー被害を受けていた場合に現実に禁止命令等を出そうと思うと、証拠があるのかどうかといった点も大切となってきます。どのような行為が禁止行為とできるのか、証拠を少しでも準備できるとより対応が迅速に行われることとなるでしょう。
ア 「恋愛感情など好意の感情、その感情が満たされなかった事への怨念の感情を充足させる目的」が要件となっています。
金銭の請求、政治的目的、近隣紛争、マスコミの取材活動などはつきまとい等の行為を伴っていたとしても、ストーカー規制法での対象からは除かれることとなっています。
警察に相談をする際に、行為をおこなっている者が特定できている場合には従前の関係性を示すメールやLINEなどの証拠があるとこれらの目的があるかの認定が容易となるでしょう。
イ 「つきまとい等」として、アの目的で、当該特定の者、その配偶者、直系、同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、一定の行為がなされることが規定されています。実際になされている行為がどれに近いものであるのかを把握しておくと警察での対応ができるかものかどうかを判断しやすい部分があるでしょう。
① つきまとい、待ち伏せ、現に所在する場所又は住居、勤務先、学校その他通常所在する場所の付近において見張り・うろつき、住居等に押し掛ける行為 住居や勤務先、学校、実際に利用している店舗、公園などで見張ってたり、うろついている行為を言います。写真や防犯カメラなどがあるとよりよいでしょう。 ② 監視していると告げる行為 自宅に帰宅をしたとたんに「お帰り」と電話を入れてきたり、入浴をすると「今入浴したことはわかっているよ」とFAXを送ってくる行為は監視していると告げる行為となるでしょう。録音やメッセージのスクリーンショットなどを確保しておくとよいでしょう。 ③ 面会・交際などの要求 既に分かれて拒否しているにもかかわらず、面会や交際、復縁などを求めてくる行為をいいます。メッセージや録音などを取っておくとよいでしょう。 ④ 著しく粗野又は乱暴な言動 大声で怒鳴りつける、暴言を行うなどの行為を言います。協力が得られるのであれば、周囲の方の証言や陳述書などを準備しておくとよいでしょう。 ⑤ 無言電話、連続した電話・文書・FAX・メール・SNSのメッセージ等 短期間の間に、何度も繰り返して行われていること、拒否しているにもかかわらず何度もメールや手紙を送っていることを言います。メールやLINEなどを保存していくことは怖い部分がありますが、拒否をしているメッセージを明確に送付していること、連続して何度も送られてきていることを証拠として保管しておいたほうがよいでしょう。 ⑥ 汚物、動物の死体、その他著しく不快、嫌悪の情催させるようなものをなどの送付 宅配便を装って子猫の死体を被害者女性宅に送付するなどの行為はこれに該当します。 ⑦ 名誉を傷つける行為 名誉を傷つけるような文章をインターネットに掲載するような行為がこれに該当します。直ちに相手の行為とは判明しない部分はあり得ますが、ID、スクリーンショットなどを確保しておき、なぜ相手方といえるのかを確認できるよう準備をしておくとよいでしょう。 ⑧ 性的恥辱心の侵害 交際が断れているにもかかわらず、わいつつな画像を出す、拒絶した女性の顔写真と他の裸体の写真とを合成したものと職場付近にばらまく行為などがあたります。
ウ アの目的で、位置情報無承諾取得等
① 相手方の承諾を得ないでGPS機器等により位置情報を取得する行為
スマートフォンに無断で位置情報アプリケーションをインストールをして、位置情報を取得するような行為をいいます。
② 相手方の承諾を得ないで相手方の所持する物にGPS機器などを取り付ける行為
自動車などにGPS機器を無断で取り付ける行為やGPS機器を取り付けた物を渡す行為などをいいます。
どの要件に該当するのか、どのような刑事罰がなされるかについては、ストーカー規制法はやや複雑な体系を取っています。どのような行為がなされているのか、反復継続されいるのか、どのような不安を覚えてることになっているのかを相談をしていくとよいでしょう。
警察に相談をしている中で、
① 援助の申し出
② 警告
③ 禁止命令等
などの適切な措置が取られていくこととなるでしょう。
禁止命令等を希望している場合には、相談段階で警察に対して希望を伝えておくことが大切となるでしょう。
4 禁止命令等が発動されるための条件とは
エ ストーカー規制法3条違反行為に該当するか(「不安」及び「不安を覚える方法」)
ストーカー規制法では、ア、イのつきまとい等の事実があり、「その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚え」させる行為であった場合には、ストーカー規制法3条違反行為に該当し、これらの行為が反復しておこなわれるおそれがある場合には、
① 警告(4条)
② 禁止命令等(5条)
を行うこととなります。
なお、被害者が自分にて解決を図りたい場合などには、援助の申し出を行うことによって、被害を自ら防止するための措置の教示等の必要な援助を行うこととなります。
〇 禁止命令等とは何か。 ストーカー規制法5条では、都道府県公安委員会は、ストーカー規制法3条に規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者がさらに反復して行為をするおそれがある場合には、申出又は職権にて、禁止命令等を出すことができます。 禁止命令等は通常は、意見の聴取などを行いますが、緊急に必要性がない場合には、意見の聴取などは先行させずに、禁止命令を出すことができます(5条3項) 禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合などは刑事別を受けることとなります(19条)。 ① ストーカー行為をした場合には、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処されることとなります。 ② 禁止命令等に違反してつきまとい等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同様に、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処されることとなります。 禁止命令等に違反する行為は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることとなります(20条)
オ ストーカー行為
同一の者に対し、つきまとい等(第1項第1号から第4号まで及び第5号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。
・つきまとい等の行為のうち①~⑤号に該当する行為であること
・身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法であること
・反復して行われるものであること
が満たされた場合には、ストーカー行為に該当し、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることとなります(18条)。
5 ストーカー被害を受けている場合には早期の相談を
ストーカー被害を受けている場合には、証拠の収集や要件該当性、反復継続性も問題となってきますが、早期に警察に相談をしておくことが大切となるでしょう。
被害者支援を行っている弁護士に相談をしておくことで、適切なサポートを受けられる場合もあり得ます。
できるだけ早期への相談と対応を行っていくことをおススメいたします。
大阪弁護士会所属。立命館大学法学部卒・神戸大学法科大学院卒。数多くの浮気不倫問題、離婚問題を取り扱っている弁護士。関西地域にて地域密着型法律事務所を設立。