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不倫をした夫が、退職金、不動産を隠匿しようとする場合の対応は?

不倫をした夫が、退職金、不動産を隠匿しようとする場合の対応は?

財産分与請求権の保全、調停前の仮の措置(家事事件手続法266条)、審判前の保全処分(家事事件手続法105条)、家庭裁判所における民事保全処分(人事訴訟法30条)の利用により財産を確保する方法があり得ます。

(想定事例)

夫とは上場企業に勤め、退職金も相当な金額が出ると聞いています。
あるとき会社を辞めて自分で会社を起こしたいといった話をしたときに夫婦喧嘩となり、家ではギスギスした雰囲気がありました。
それでも子どものためにと我慢をして夫婦生活を続けてきました。
ところが最近夫が預貯金の通帳を自分で管理すると言い出したり、泊りがけで仕事をすることが増えてきました。
会社で役職についているとはいえ、自分自身でかなりの調整ができる立場にあるので不振に思いました。
スマホをみたところ、夫が会社の同僚と浮気をしていることが判明しました。
メッセージのやりとりを見ていると、自分の単独名義となっている家を売ったお金や退職金を使って、浮気をしている女性と共に海外で暮らす計画を立てているようでした。
どこまで本気でそんな話をしているのかわからないのですが、家族の財産を使って、子どもや家族を捨てて、女性と暮らそうとしていることに愕然としてしまいました。
エクセルで計画書のようなものを作成しており、夫と相手の浮気女を許すことができませんが、逃げられてしまうのではないかと怖く思っています。
夫とは、離婚するしかないとは思っているのですが、離婚前に財産を確保することはできないのでしょうか。

弁護士の回答

① 離婚時の財産分与請求権を確保するために、調停前の仮の措置(家事事件手続法266条)、審判前の保全処分(家事事件手続法105条)、家庭裁判所における民事保全処分(人事訴訟法30条)の保全手続を活用して、財産の流出を防止することが考えられます。

② 被保全債権として、離婚が認定される蓋然性の存在と財産分与見込額の疎明など本案が認容される見込みとを疎明することが必要となってきます。

③ 保全の必要性として、本案の権利につき確定するまでに、暫定的な措置を取らなければ、権利の実現が実質的に不可能または困難になる事情が必要となります。

④ 保全を行うためには、担保が必要となります。担保金については、本案が出て、きちんとした支払いがなされれば返還されることとなりますが、一定期間は使用ができなくなるため、どのようにして用立てるのかのプランを考えておくことが必要となるでしょう。

1 離婚事件などの保全の種類について

 保全制度とは、裁判の審理には一定の期間がかかり、その期間を待っていたのであれば、権利実現が困難となってしまう場合に、本案の権利を実現するために、仮差押えなどを求めていくものをいいます。

 離婚事件については、下記のような方法を活用することがありえます。
① 調停前の仮の措置(家事事件手続法266条)
② 審判前の保全処分(家事事件手続法105条)
③ 家庭裁判所における保全処分(人事訴訟法30条、民事保全法)

2 調停前の仮の措置について

調停委員会は、家事調停事件に継続している間、調停のために必要であると認める処分を命じることや裁判官は急迫の事情があるときにも調停前の保全処分をすることができます。
正当な理由なく、調停前の仮の措置について、従わない場合には、10万円以下の過料に処されると規定も存在します(家事事件手続法226条4項)。
調停前の保全処分については、担保が必要でないため、家庭裁判所などからこのような調停前の仮の措置が出されることで、相手方の行動を抑止することができるのであれば、効果を生じることとなるでしょう。
しかし、調停前の保全処分には、執行力を有しないこととなっています(家事事件手続法266条3項)。そのため、家庭裁判所の要請に従わず、無理やり処分を断行される危険性は残ることとなります。
相手方がどこまでの行動をとってくる可能性があるのかを踏まえて、選択を行っていくこととなるでしょう。
調停が成立するまでに不安であるといった場合には、申立てを行い、発動を促していくことがあり得るでしょう。

3 審判前の保全処分について

既に離婚が成立している場合には、離婚訴訟を提起することはできません。
もっとも、民法768条では、離婚のときから2年以内であれば、財産分与を行うことができ、当事者の協議が整わないときには、財産分与調停、審判を行うこととなります。
すでに離婚が成立しているため、人事訴訟を本案とする保全の申立てはできないため、審判前の保全処分を申立てを行うことができます。

審判前の保全処分では、
・申立ての趣旨
・保全の事実の疎明
① 被保全債権
② 保全の必要性

また、保全は仮の処分であるために相手方の損害を回避するために、一定の担保の提供が必要となります。
これは、まだ本案が確定していないため、どれだけの財産を本来もらえるかは未確定であるためです。
離婚に伴う財産分与では、担保額の15%±5%など財産分与程度の金額となることが想定されるでしょう。
通常の民事保全の場合よりも低額となることもありますが、不動産が対象となった場合には、担保金が高額となることはあるので用意できるよう準備をしておきましょう。

そして、対象となる財産については、打撃の少ない財産から選択することとなってきます。
預金債権、保険解約返戻金、不動産などどの財産が打撃が少ないのかを選んでいくこととなるでしょう。

本件のような退職金については、退職の具体的な兆候、退職金について隠匿、処分のおそれがどれほどあるのかによって判断がなされるため、対処金に対する仮差押えの保全処分などは否定されやすい傾向があるため注意が必要となるでしょう。
また、退職金については4分の3の仮差押えはできないことには注意が必要となるでしょう。

4 保全処分

財産分与請求権を被保全権利として、人事訴訟を本案として、保全処分の申立てを行うことがあります。

保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分が存在しますが、財産分与請求権では、仮差押えや不動産の処分禁止の仮処分を行うといったことが考えられるでしょう。

不動産の処分禁止の仮処分では、処分禁止の登記がなされることとなります。

保全処分には、
① 被保全債権  :被保全権利については、離婚前に財産分与請求権を保全するときには、離婚が認定される蓋然性、婚姻関係が破綻していること、財産分与請求権の見込み金額の疎明などが準備します。
財産分与請求権の見込み額については、資産のみならず、負債や申立人の資産も問題となるため、それらの疎明を必要となってきます。
② 保全の必要性 :
・仮差押の場合では、強制執行をすることができなくなるおそれ、強制執行をするのに著しい困難を生じるおそれがあるとき
・処分禁止の仮処分では、不動産が現状の変更がなされるなどにより債権者の権利を実現することができなくなるおそれがあるとき、権利を実現するのに著しい困難を生じるおそれがあるとき
が必要となります。

③ 担保金を用意することが必要となります。
不動産の場合には、固定資産税評価額を基準に算定することがあり得ます。

日本司法支援センター(法テラス)での要件があるものの、支払保証委託契約を行い、立担保要件を利用することがあり得ます。

5 まとめ

家事事件では、財産分与請求権、慰謝料請求権などを被保全債権として、保全を行うことを検討を行うことがあります。
具体的な事案によって、保全の必要性、疎明ができるかには問題があるため、弁護士と相談してどのような戦略で離婚を進めていくとよいでしょう。
天王寺総合法律事務所では、離婚問題に取り組む弁護士が所属しておりますので、離婚問題について弁護士を必要とされる場合にはお気軽にお問い合わせください。

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